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4月20日

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「シーズーちゃんっ」

俺は今、あと残り僅かとなった休憩時間以内にトムさんと合流すべく歩いている。

「シズちゃーん」

だから、何も聞こえないし見えない。
そこに居るだけで不愉快なゴミ虫野郎なんて居ない。

「シズちゃんてばー」
「――っうるせぇ!!今はテメェに関わってる時間なんて無いんだよ失せろゴミ虫!!」

今関わったら、喧嘩になったら間違いなく時間内にトムさんに合流することが出来ない。だからスルーを決め込んだのに、このゴミ虫――イザヤはわざわざ俺の前に回って覗き込むように進路を妨害しやがった。なんだってこいつはいつもいつも俺に絡んできやがる。ウザい。心底ウザい。今すぐ死んでくれ。

「シズちゃん今日冷たぁい。何?何かあったの?」

空気も読めないこいつはまた歩みを進めた俺を追いかけてきて並んで歩く。
関わりたくないと、喧嘩をしている暇などないとつい何秒か前に伝えたはずなのに、所詮ゴミ虫のこいつには通じなかったのだろうか。

「まぁいいや」

イザヤはまたしても俺の進行方向に立つとポケットに突っ込んだ両手をバッと広げて過剰気味に笑みを作った。
この顔は本当にムカつく。ムカつく以外の何物でもない。昔から演技じみた言動をするが、何故ここまでムカつくのか、それは初対面の最悪な思い出がそうさせるのだろう。

「ねぇ知ってた?今日ってシズちゃんの日なんだよ」
「――はぁ?」

余りにも予想外な・突飛な内容に思わず声が出た。

「今日はね、“シズちゃんの日”なの。4月20日で4・2・0、でシ・ズ・オ。ね?」
「女子高生かテメェは」
「あれ、気付いたとき、俺天才って思ったんだけどな」

本気なのか嘘なのか分からない顔で笑う。そんなくだらないことのためにこうやって俺の時間を無駄に消費させて邪魔ばかりする。

イザヤは本当に理解できない存在だ。
「人間が好きだ」とかわけの分からないことを言って、反面ぐちゃぐちゃな歪な世界を好む。俺はこうやって必死に日常に縋りついて生きているのに、あいつは自分からわざわざ非日常に足を突っ込んで、真っ暗で危険な世界に生きている。まるで理解できない。そして、何故俺にこうまで執着するのかも。

イザヤの顔が急に近付いてきて反射的に後ろへ避ける。その瞬間視界がクリアになって、一瞬後にサングラスを取られたのだと気付いた。

「今日はシズちゃんの日だから、シズちゃんのサングラス頂戴?」

かすめ取った俺のサングラスを愉快そうに自分でかける。割と童顔な顔には不釣り合いなそれ。

「返せ」
「えー、いいじゃない。今日はこんなに曇ってるし、夕方から雨が降るって言ってたよ?」
「だから何だ」
「はー…はいはい、返すよ」

ほら、と言ってサングラスを右手で外しその手を俺の方へずいっと突きだす。俺はそれを奪おうと手を伸ばした――が。
ガシャンッ
と音を立ててサングラスは地面へ落下した。それに驚いて止まった俺のその一瞬にイザヤの右足が音を立ててそれを踏みつぶした。

「あー、ごめんごめん。傷ついちゃったから今度新しいの買って返すよ。」

俺は茫然と今の今までサングラスであったものを見つめた。
イザヤは楽しそうにカラカラと笑うと「じゃあ、またね」と言って去って行った。
暫く動けずにいると俺を呼ぶ声が聞こえてハッとなる。この声は間違いなくトムさんだ。

「どうした?」
「…なんでもないです。スイマセン、遅れて…」
「まぁいいけど。シズオ、グラサンは?」
「あー…失くしちまって…」
「そうか?」

本当に一体何だっていうんだ。
イザヤは――あのゴミ虫は何故俺に付きまとう。俺は静かに『日常』を生きたいだけなのに。

作品名:4月20日 作家名:くろ