二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

幻想からの追撃手

INDEX|1ページ/1ページ|

 
あのね、早く帰って来てね。今日はルートの大好きなじゃがいも料理たくさん作って待ってるからね。

 受話器から聞こえてくる朗らかな声に相槌を叩いて、携帯をコートのポケットに仕舞う。それから沸き上がる感情を押し隠すように残り少なくなった珈琲を飲み干した。正面の席に座っていた本田が訝しげに首を傾げたのが分かった。

「どうかしましたか?」
「いや、フェリシアーノに早く帰って来いとせがまれてな」
「……ああ」

 本田は何とも言えない表情で頷いた。その様子にルートはごほん、と咳をして彼の前にあるカップを指差した。

「お前も早く飲め。温くなってしまうぞ」
「え、ええ。すみません」
「……この喫茶店の珈琲は美味いな」
「ビールばかりの貴方が珍しい事を言いますね。私もそう思いますが」
「フェリシアーノも連れて来れば良かった」

 また本田が眉間に皺を寄せる。羞恥心が込み上げて来て、すまないと謝ったら苦笑された。フェリシアーノと一緒に居すぎたせいか、無意識にそのような類の言葉が出てしまう。しかし、それが嫌かと聞かれると肯定は出来ない。愛しているからだった。







本田と別れた後、誰もいない路地を歩いていると急に電話が鳴り出した。画面を見てみるとフェリシアーノと表示されていた。

『あ、ルート?帰ってくるの遅いよー。もう七時じゃんか』
「すまない。本田と話していたら長くなってしまってな」
『菊となら仕方ないけどさ……早く帰ってくれないとご飯冷めちゃうよ』
「あと少しで帰るから待っていてくれないか?」
『あと少しだよ?』

 子供みたいなフェリシアーノの笑い声が優しく耳に響く。つい口元を緩ませていると、向こうであ、と声を上げたのが分かった。

『あ、あのね、ルート大好きって言ってくれない?』
「はあ!?」
『急に聞きたくなったんだって!駄目?』
「家に帰ってからだ!」
『なんでー』

 抑えが効かなくなるからだ。と言えばまた楽しそうな笑い声が聞こえた。それを聞きながら携帯を耳元から離して先程よりも早く歩く。周囲にはいつの間にか人が増えていた。










 鍵をドアノブに差し込んで回して開く。電気のついていない暗い玄関は何度も見た光景だった。

「帰ったぞ、フェリシアーノ」

 パチン、とリビングの照明を付けて明るくする。テーブルの上には夕食など置いてはおらず、匂いもしない。ただ、茶髪の青年が写った写真があるだけだった。

 ルート、愛してるって言って。

 もう成人したというのにいつまでも幼さの残っている声が、彼のいない部屋に静かに響く。

「愛してる、フェリシアーノ」


 もう、フェリシアーノはいない。世界中を捜しても見付かるはずがない。分かっていながらも、愛していると囁けば再びあの笑顔に会える気がした。

作品名:幻想からの追撃手 作家名:月子