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崩壊願望

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時々こんな世界一旦壊れてしまった方がいいと真面目に考えたりする。

 下らない理由で銃を構え、血の臭いを嗅いで自分もまた死んでいく。一方では権力を誇示したいがために誇りを捨てて金に縋り、性に溺れていく。それはどんな国の者も共通で、人類の抗えない宿命のようなものだ。
 ユニオンジャックを背負う自分はこの翡翠の眼で人間が堕ちていく様を繰り返し見てきた。もちろん、美しいと素直に思えるものもたくさん眼に映した。それでも、この世には前者の方が遥かに多い。
気持ちが悪い。いつしか自分もこうなってしまうのかと思うと、吐き気がした。穢れた存在には墜ちたくない。だから、壊してしまおうと思う。

「そんな事仕出かして君はどうするんだい?」
「解らねぇよ、その後どうするかなんて」
「後先考えないなんてそれはただの愉快犯の思想だね、君の望み通り全部なくなるなんて俺は嫌だよ」

 子供っぽい言動ばかりをしているくせに、こんな時に限って笑顔すら浮かべずに淡々とした口調になる弟をアーサーは複雑に思う。これが彼の本質なのだろう。兄を見ているはずの青の眼はどこか遠くを眺めているようにも感じられた。自分だけを見ていればいいと本気でおもっていた頃を思い出して自嘲した。

「お前が壊して欲しくないのは壊さないでおくよ」
「愉快犯が何言ってるんだよ」
「お前の言葉なら少しは聞いてやるって事だ。光栄に思え」
「へえ」

 それなら、とアルフレッドが口を開く。懇願とは程遠い呆れたような表情だった。

「何もしないでくれ。今のまま暢気に紅茶でも飲んでおいてくれないかい?」
「何だそりゃ。んなもん、ただの説得じゃ」
「君みたいな冷酷になりきれない性格じゃ世界崩壊なんて出来っこないよ」

 アルフレッドはテレビのスイッチをオンにしながら言い放った。画面に映し出されたのは幼い子犬と母親らしき犬がじゃれ合っている映像だった。そういえば動物の親子の特集番組がやるとアルフレッドが騒いでいた気がする。
 可愛いな。まだ掌に乗る程度の大きさの子犬が母親の体に擦り寄る光景にアーサーは見とれた。つん、と鼻の奥が痛くなる。

「万が一出来たとしても君は絶対に後悔するよ、立ち直れなくなるくらい」
「……後悔ならいつもしてるさ」
「今までの比じゃないと思うけどね。君も確実に壊れる」

 多分俺が一度君から離れて行った時よりも辛い。そう付け加えてアルフレッドは溜め息をつくと、コップに注いでいたコーラを少しだけ飲んだ。その顔が僅かに泣きそうになっているのに気付いて、アーサーは息を呑む。
今まで無表情だったのは、どうでもいい話題だったからではない。幼い彼なりに感情の爆発を抑えるためだと、そこでやっと気付く。それを証明するように次に出てきたアルフレッドの声は震えていた。

「俺もこんな世界無くなった方がいいと時々本気で思ったりするよ。でも、そのせいでアーサーが壊れるのはごめんだ」


作品名:崩壊願望 作家名:月子