ずるいよ
君は罪深い男なんだよ。
「それでね、杏子さんがねっ」
「……」
いつものように厨房に入る。
と、僕より早く入っていた佐藤くんと轟さんがいて。
これまたいつものように惚気話を聞かされている。
(可哀相な佐藤くん)
轟さんのことが好きなのに。
その轟さんに、惚気話を聞かされて。
それでも話を聞いてあげるのは、きっと。
(轟さん、キラキラしてる)
楽しげに話す轟さんの笑顔が、好きだから、なんだろうな。
「佐藤くんっ」
「……何だ相馬」
「うっわー疲れてるね!また轟さんに惚気話聞かされたんだ?」
「……まあな」
そう言ってため息を付く佐藤くん。
沈みきった佐藤くんを見るのはいたたまれない。
だって可哀相だもん、できれば気を楽にしてあげたいよね。
それでも、僕がその話をいつも持ち出すのには理由がある。
「でも、好きなんでしょ?」
僕がそう言うと、
「……まあな」
君の顔が愛しげに綻ぶから。
その表情を見る度、僕は幸せになる。
優しい気持ちになれる。
こんな気持ちは、佐藤くんと出会うまで知らなかったんだ。
でも、それと同時に。
「もー佐藤くん轟さんに告白しちゃいなよ!
結構いい線行くと思うんだけどなー僕はっ」
「黙れ殴るぞ」
その表情を作り出せるのは僕じゃない。
そんな、当然のことに気付かされる。
切ない、虚しい、複雑な気持ち。
こんな気持ちも知らなかったんだ、君と出会うまでは。
「ふえー殴んないで!フライパンは痛いよ!」
「……ちっ、早く仕事戻れ」
轟さんが佐藤くんの気持ちに気付かないことを罪だとするならば。
佐藤くん、君も同罪なんだよ。
「佐藤くん優しいねーそういうところ好きだよっ!」
「はいはい分かったから仕事しろ」
ほらね。
君は罪深い男なんだよ。
ずるいよ
(自分だけが可哀相だと思ってる?)