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3分間のキス。

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「ゴメンな! いや~…まさか母ちゃん出かけてるなんて…」
「いや、別に構わない。押しかけたのは俺の方だから」

 ゴソゴソと戸棚の中を物色する円堂の背中から、豪炎寺は遠慮がちに声をかける。
 練習が終わって一直線に円堂家へ来た2人の空腹は頂点に達しており、それらを手軽に満たしてくれるカップ麺の存在を思い出した円堂が、現在カップラーメン発掘隊長を務めているのだ。

「豪炎寺~!ミソと、醤油と、トンコツと、塩…どれがいい?」
「…ん……そうだな………お前のオススメで…」
「…?なに、もしかしてお前カップラーメン嫌いだった?」

 ハッキリと答えない豪炎寺は珍しい。
 キッチン下の戸棚内にその大きな頭の9割を突っ込んでいた円堂は、勢い良く這い出て振り返る。
 …と、豪炎寺は居心地の悪そうな顔で苦笑しており…

「いや…実は、あまり食べたことが無いんだ……」

 珍しく。
 とても小さな声でそう言った。













「参ったな。やっぱりアレか?身体に悪いとかって言われてたりするのか?」

 結局。
 円堂いわく『定番!』な味噌味と、最近彼がハマっているというネギ塩トンコツ(湯を入れた段階でかなり強烈な匂いがした…)それぞれを抱えて二人は円堂の自室へ向かう。
 キッチンで食べればいいのに・と不思議に思いながら見つめていたら感づかれたらしく、

「こういうのは隠れてコッソリ食べるのがまたウマイんだぜ?」

 サッカーをしてる時と同じくらい生き生きした顔に背中を押され、納得させられてしまう。
 考えてみたらこうして誰かの家でカップ麺を食べることは初めてで(そもそも、家人の留守中に友人の家へ上がることも初めてだ)…
 きっと円堂から見た自分も同じような顔をしているのかもしれないなと、少々くすぐったく思った。



「さて。そしたら3分待つか!」
「あぁ」

 言われるがまま。
 手持ち無沙汰で、何とは無しに壁にかけられた時計を見る。
 秒針までついているタイプのものだから、ついその動きを目で追っていると………


「………その目はズルイな」
「…?」

 窓から差し込む夕暮れの光でうっすらオレンジ色に染まっていた視界が、さらに鮮やかなオレンジに遮られ。
 思わず息を詰めた唇に、熱の塊のようなソレが重なった。

「…っ、円堂!?」

 驚いて退こうとした頭部は、いつの間にか隣から伸びた、ぶ厚い掌に首の後ろから支えられて身動きが取れない状態だ。
 秒針が刻む音と、唇同士の狭間から聞こえる音が、次第に重なる。
 圧し掛かってくる円堂の熱さと燃えるような唇の感触に追い立てられるような気がして…
 何回経験しても慣れないその感覚に、豪炎寺は逃げるように目を瞑った。

 瞳を閉じた暗闇の中、一向に治まる気配の無い円堂の勢いに抵抗しようと彼の身体をやんわりと押し返すが、びくともしない。
 そうしている内に、何度も角度を変えて重なる唇はお互いの熱を分け合って、同じくらいの熱さになってしまっていた。

「…んっ……」

 閉じた瞳の向こうで、普段は決して聞くことの無い低い吐息が聞こえることにどうしようもない羞恥心を覚える。
 きっと自分も同じような声を出してしまっているのだと、考えるだけで、彼の胸を押し返す右手の指先までが燃えるように熱い。

 今までにない長さの口付けが息苦しくて、抗議をしようと瞳を開けたそこに「円堂の部屋」が映り、自分でも驚くくらい鼓動が速くなるのが分かる。
 耐えられず、豪炎寺は再びギュっと目を瞑った。

「…豪炎寺。眼、見たい」

 散々角度を変えて唇を啄んでいた円堂が、至近距離で囁きかける。
 その吐息が、すっかり熱くなってしまった唇に触れて、擽ったさに豪炎寺は首を竦めた。
 とてもじゃないが、ちょっと、今は目なんて開けられそうもない。

 ピピピピピピピ…

「あ。3分経った」

 無機質なアラーム音がテーブルの下から振動と共に突然存在を主張して、スルリと、円堂の腕は拘束を解き離れて行く。

「円堂…お前……」

 すっかり涙目の豪炎寺は、あまりの展開にアーモンド形の瞳をさらに吊り上げて睨みつける。
 ペリペリとラーメンのフタを剥がし始めた円堂は、豪炎寺の分のフタも剥がし終わってからクルリと身体ごと向き直り、満ち足りた全開の笑顔で言い放った。

「豪炎寺が悪いんだぜ?」
「なっ…」
「オレのこと、あんな風に見てくれないクセに…時計ばっかりズルイじゃん」

 ガシリと両頬を掴まれ、逃げる間も無く、真ん丸い円堂の瞳に捕われる。
 額と額が触れ合うような距離でお互いを見つめ返すことには、まだ慣れない。
 円堂は、動揺に瞳を揺らした豪炎寺に瞳を細めて………

「アラーム、かけなきゃ良かったな。 いただきまーーーす!」
「…っ!」

 今度は勢い良く、噛み付くようなキスをした。







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作品名:3分間のキス。 作家名:抹茶まつ