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偉大な女王は崇高なる祈りを捧げた

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昔から誇り高い女だった。女王になるべくして生まれたような女だった。母親を葬られても、自分が殺されそうになっても、その誇りが折られることはついぞなかった。そして多分、俺はそんな彼女に憧れて…愛して、いたのだろう。
「…ベス。」
「あら、情けない顔ね。イングランドともあろうものが。」
彼女の命の灯火は、もうすぐにでも消えようとしていた。不思議なことでも何でもない。齢70。今の世を思えば…そして彼女のこれまでの人生を思えば、奇跡のような長生きだと言って差し支えないだろう。俺は彼女を休ませてやるべきなのだ。これまでただ俺の為に生きてきてくれた彼女を。
なのにどうしてか、胸に迫るのは悲しみと寂しさばかりだった。ああ俺は、最期にすら彼女に頼ろうと言うのだろうか。
「…悪い。」
「ふふ、昔から変わらないわね貴方は。」
とても悪人のように見えて、とても優しいのよ。
死の淵にあってすらそう言って彼女は笑った。全く敵わない女だ。人の身は儚い。けれど、その内に宿る魂はどんなに頑強なのだろう。自分ではない誰かの為に、何故ここまで強くあれるのだろう。俺は彼女のように強い女をもう一人知っている。遠い過去で、この手にかけてしまったけれど。
「なあ、ベス。」
「何かしら、イングランド。」
「良かったのか。人生丸ごと俺の為に使って…結婚すらせずに。」
「あら、酷いわね。もう忘れてしまったの?」
「…え?」
彼女はこれまで、寄せられた婚姻を全て破棄した。それは他ならぬ俺、イングランド王国の為だった。自惚れと思われるかも知れないが、構わない。彼女は国の為に自らの人生を捧げた。俺が言いたいのはそんな彼女の優しさと強さなのだから。
しかし、彼女は俺を責める。俺が何か気を悪くさせるようなことを言ったかと考えていると、彼女がクスクスと笑う声がした。
「ベス?」
「私はもう結婚してるわ。」
「は?誰「貴方。」」
俺は耳を疑った。彼女は今なんと言った?俺?まさか。
俺の困惑を知ってか知らずか、彼女は重ねて言った。
「言ったでしょう、イングランド。私は貴方と結婚したの。」
彼女の言葉は、俺に一つの情景を鮮やかに思い出させた。
 誰もが彼女に注目していた。大多数の国民を目の前にした女王。ひしめき合う民衆の中でしかしその威光を霞むことなく、彼女はこう言い放ったのだ。
――私は、王国と結婚したのです――…
「あれは、鼓舞するためじゃ。」
「まさか。本気だったわ。だからあの時から、私の夫は、貴方。」
彼女の声音は若い娘のような茶目っ気を含んでいたが、それでも冗談には聞こえなかった。俺は絶句する。この女は全く、最後までこちらを驚かせ、そして救ってくれる。
「ねぇ、イングランド。私はもうすぐ永遠にこの世を去るでしょう。」
「…そんなこと、言うな。」
「でも、泣かないのよ。笑いなさい。この私の夫なのだから。そうでしょう?」
昔から、誇り高い女だった。俺に眩しすぎるほどの光を与え、それで尚輝きの衰えぬ、そんな女王の中の女王だった。
俺はその、夫であるという。だから、情けない顔を見せるなと。
「――敵わないな。」
「返事は?イングランド。」
 何を迷う必要があろう?返事などはじめから決まっている。
 俺はやせ衰えた、それでも力強いその手をそっと持ち上げ、恭しくキスを落とした。
「無論。身に余る光栄に御座います、エリザベス女王陛下。」
「我が祖国にして生涯のパートナー、誇り高き王国イングランド。」
彼女の手が俺の手を握り返す。澄んだ瞳が真っ直ぐに俺を見据えた。
「立派な国になりなさい。世界に誇れる大国に。」

 彼女はそう笑って息を引き取ったのだ。俺は泣きたかったのだと思う。けれど彼女との最期の誓いに従って、その顔に笑いかけてみせた。
「ああ、お前を女王に戴いたイングランドの名に恥じぬよう。」
――必ずだ、ベス。