はじまり
少年はほぼ誰もいない車内でだんだんと都会のビル群から田畑へと移り変わる景色を何とは無しに眺めていた。
両親から仕事で海外へ行く事になったと、その間叔父の家に行くようにと聞かされたのは何時だったか。
ずいぶんと前のような、まだ最近のような…記憶が曖昧だ。
そもそも今までだって両親が家に居ない事の方が多く、一人暮らしをしているようなものだった。
それが海外になったからと言って俺の生活に変化があるわけではない。
なのに心配だからと叔父に預けられる事になっていた。
…心配なんて、今更だろ。
本当は行きたく等なかった。
だがもう叔父に話を通した後だったようだし、何よりこれ以上両親と話したくなくて了承した。
頷いた時に両親があからさまにホッとした顔をしていて、それが無性に腹立たしかった。
駅の改札を出ると、すぐに目的の人物が見つかった。
無精髭を生やした男と、隣に立つ少女。
挨拶もそこそこに男の運転する車に乗り込んで、これから一年お世話になる家へと向かう。
気を遣わせているのだろう、話題を探り探りの男に笑顔で相槌を打つ。
「それにしても見ないうちに随分成長したもんだ」
おむつ換えた事もあるんだがな。
家に到着し荷物を部屋に運び込んだ後リビングに降りると、ソファーで寛ぐ男―叔父―はそう言って苦笑する。
叔父とは幼少の頃に一度会っているようだが、生憎こちらは覚えていないので会ってないのと同義だ。
それに今叔父の影に隠れるようにしている小さな娘。
こんな子供と何を話せって言うんだろうか。
子供との接し方など分かる筈もなく、上手くやっていく自信なんか俺にはなかった。
何より今すぐ都会に帰りたくなった。
初めてこの家で囲む夕食だというのに、叔父は掛かってきた電話を受け、せわしなく出掛けて行った。
その様子を従姉妹は不安げに見詰めていた。
突然やってきた高校生と二人きりにされれば、不安にも思うだろう。
だが、俺には彼女の不安を取り除いてやれるだけの言葉が思い付かなかった。
夕飯にしようという彼女の言葉に頷いて始まった会話のない淋しい夕食。
ちらちらとこちらを窺いながら箸を進める彼女。
それが異様に居心地悪くて夕食もそこそこに立ち上がり、疲れたから休むと告げて逃げるように二階に上がった。
自分に宛がわれた部屋は必要最低限の家具と、向こうに居る間に荷造りし送っておいた段ボール数箱が置かれているだけの殺風景なものだった。
殺風景さでいえば、都会で生活していた部屋と大した差はないが。
…それにしても、ガソリンスタンドに寄った後から眩暈が酷い。
思っている以上に疲れているのかもしれない。
明日からは学校がある。
初日から休むわけにもいかないから、さっさと寝てしまおう。
布団を敷いて寝転べば自然と瞼が落ち、眠りに就いた。
この日を境に俺は、真実を求め旅をする事になるとも知らずに――