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like moon

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「じゃあな、アメリカ」



イギリスが、背を向けた。
夕日でイギリスの輪郭がぼんやりとして、近くにいるはずなのに、遠く感じて。

とっさに手を伸ばしたけれど、もう既に彼は届かない場所へと行ってしまっていた。




待って 行かないでイギリス!





嫌だよ・・・ひとりにしないで









イギリス・・・・・・
















「・・・イギ・・・っ」





はっと瞼を開く。
いつの間にか眠ってしまっていたらしい。ソファの上で体を起こす。
何気なく顔に手をやると、頬が濡れていた。



ふっ、と誰かの影が脳裏に浮かんだ。



しかしそれはあっという間に消えてしまい、端さえも掴めなかった。






ただ、胸の中によく分からないもやもやした感情と、懐かしさを残して、逃げていった。





眩しい程の月明かりが、開け放していたベランダから射していた。一瞬息を呑む。
テキサスが床に落ちていたが、拾うのは億劫だった。




何故かそこに、誰だか分からないけれど、とても会いたい人がいる気がして

早く行かないと、今の影のように消えてしまう気がして

影とその人は、同じ人のような気がして




風で緩やかに揺れるカーテンを押しのけ、ベランダを見た。













. 「・・・まったく。オレはどうかしてるよ」




誰かがいる訳がない。




小さく溜息をつくと、柵に寄り掛かった。
上を見上げると、思ったより近くに星を感じた。とても遠くにあるはずなのに。


月は、遠かった。
こんなに明るく自分を照らしているのに、遠く感じる。星よりも近いはずなのに。



まるで、誰かのようだと思った。
そして、思い出した。
見ていた夢のことを、懐かしい影のことを。



「イギリス、君は月みたいなんだぞ」



おどけた口調でいって、自分にしては珍しく虚しくなって、口を閉じる。
ここにいない人に話し掛けてどうする。







会いたい、と思った。






けれどそれは叶わない願いで。

アメリカが独立してから、イギリスはほとんど顔を見せなくなった。
公の場で運良く会えて話し掛けようとすると、離れていってしまったり、近くにいる人と話し出したりしてしまう。



近くで輝いているように見える星たちに願っても、実際の距離は遠いので、届きはしない。

一番近い月に願おうとしても、まるで避けているかのように遠く、冷たく輝いているだけで。








何に、誰に、何処に、願えばいいのだろう。この望みは。










ああ、全てが夢だったらいいのに。


全てが、昔に見た夢だったなら・・・。



目が覚めたら、隣には彼がいて。

「どうした、怖い夢でも見たのか」と訊いて、優しく微笑み抱き締めてくれる。




決して、今宵の月の様な顔は見せなかっただろう。




いや、あの時から彼は月の様だった。


滅多に会えなくて、久しぶりに会えたと思ったら、すぐに本国へ帰ってしまって。
届きそうと思った瞬間に、するりと届かない場所へ行ってしまう。





近いはずなのに、遠い。





星達よりも近い存在のはずなのに。




届かないと分かっていて魅かれるのは、冷たくも美しく光っているから。

だからオレは、ここで、ただ見上げているだけ。
決して、掴めないのなら、手に入らないのなら。
それくらいしか出来る事は無いだろう?









月のような君を想う
作品名:like moon 作家名:おさや