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合戦の最中、求めるは彼の背中。

合戦が始まれば何時もの如く、彼は蒼い陣羽織を翻して走り出す。
俺の小言等もうその耳には届いてはいない。
ただただ、彼の背を護る為に跡を追うしかない。
だが敵の雑兵達は其れを良しとせず、次から次へと俺の行く手を阻み、視界を閉ざした。
彼の名を呼べど、もう声の届く範囲に居ない事は明らかで。
そして、俺は彼を見失う。

元々この戦は伊達の劣勢、彼を一人にするべきではなかった。
其れがどうだ、雑兵に囲まれ、結果的に彼を一人にした。
こうなってしまえば、最悪の事態にならぬよう、少しでも早く彼の元に。
向かって来る雑兵達を手にした刀で薙ぎ払う。
この身に受けた傷の痛み等気にはしない。
雑兵の多さに苦戦していると、前方で衝撃音と共に、見慣れた蒼い雷を見た。
彼の居場所を示す物。
俺はただ、彼の身を案じながら疾走する。

だが、最悪の事態は訪れた。
俺がその場に辿り着いた時、彼は俺の目の前で、ゆっくりと倒れていく処だった。
蒼い陣羽織を、紅く染めて…。
彼の名を叫んで、彼の身体が地に落ちる前に受け止めた。
力無い身体を支え必死に呼び掛ければ、隻眼の瞳が開かれ、か細い声音で俺の名を紡いだ。
その瞳も、声音も、何時もなら感じられる覇気が、なくなっていた。
彼から流れ出る紅が、彼がそう永くない事を知らしめる。
柄にもなく動揺して、彼の名しか繰り返せない自分。
そんな俺の頬に、紅く濡れた掌が触れた。

「      」

彼の、最期の言葉。
俺はその言葉に驚愕し、彼は自分の声が届いた事に満足そうに微笑んで。
そして、頬にあった掌は――地に落ちた。

「まさ、むね…さま」
腕の中にある身体は冷たくて、彼がもうこの世にいない事を否が応にも知らしめた。
彼を殺めた敵大将は、動かなくなった彼に等興味はないと、一瞥もなく姿を消した。
俺には敵大将に刀を向ける力等なく、見送った。
戦場の喧騒等、もう聴こえない。
ただ、腕の中の彼だけが俺の事実。

あぁ、何故だ…。

「何故、俺だけが生き残る―――!!」

戦場に、俺の叫びが木霊する。


貴方が居なければ、俺に存在する理由等ないのに。

「お前、は…生きろ、よ」

貴方の最期の言葉で、跡を追う事すら許されない。
本来なら今直ぐにでも、貴方の傍に逝きたいのだけれど。
遺された者として、愛した貴方の意志を、願いを叶えてみせよう。
其れが、俺なりの貴方への贐(はなむけ)――。
作品名: 作家名:瑞稀