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指先のエロチシズム

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 カタカタと音を立ててキーボードの上を細い指先が踊る。細いと言っても女性的であるかと聞かれれば違うが、屈強な男の指でもない。中性的で、繊細な指先だ。
 時々考え事をしているのかとんとん、と机を叩いたり、空中をくるくると彷徨ったりしている。
 指先から目を離せずについその動きを追いかければ、気付いていたのかくす、と微かに笑われ、ギルベルトは羞恥に頬を赤らめた。

「……もしかしてわざとかよ」
「いいえ? そんなつもりはないですよ」

 くすくすと笑い続ける菊に半分くらいはわざとだな、と判断しつつ、ギルベルトはじろりと菊を睨みつける。けれどそんなことに効果がないのは己が一番よく知っているのだ。
 つい、と目の前に指を伸ばされ、目の際をなぞってまた引っ込む。かと思えばまたカタカタと軽快な音を立てて指が踊り、ギルベルトの目線を翻弄する。
 時々からかうようにギルベルトの方へやってきては唇や瞼や鼻筋をなぞって行く指先に噛み付いてやろうかと口を開けば、そのまま舌を引っ張られる。

「……ひふ」
「はいなんですかギルベルトさん」
「はなふぇ」

 はい、と頷いた菊に舌を離され、ギルベルトはそのままもう一度だけべ、と舌を突き出してみせる。すると今度はぺし、とデコピンのように額を弾かれ、大して痛くもない額を大げさにさすってみせる。
 くすくすと笑った菊の指先は再度ギルベルトの視線をからかうようにくるくると動いてみせ、ギルベルトは引きつけられるようにじっとそれを追いかける。

「そんなに面白いですか? コレ」
「……動くものは追いかけたくなっちまうんだよ」
「それはそれは。猫みたいですね」

 喉をくすぐったら鳴きます? 目を細めた菊にどくんと心臓は期待するが、指先は皮膚を掠めただけで決定的に触れてはくれない。
 それを残念に思うと同時に、ほっとする自分を自覚してギルベルトは頬を赤らめる。その指が触れる度、熱の高まって行く自分を感じているからだ。
 もし、その指に、腕に、絡めとられてしまったら。想像するだけでごくりと喉が鳴って、浅ましい己の思考に舌打ちしそうになる。
 それを分かっていて、からかっている。すぅ、と細められる瞳も、緩く弧を描く唇も、明らかにこちらを面白がっているとわかっていて、目を逸らせない。
 触れるか触れないかの距離で指先は宙を踊っていて、口を開けば触れ、と言ってしまいそうになる。ぐっと唇を噛み締めれば、嗜めるように緩く唇をなぞられる。

「……煽んな、よ」
「煽りたいんですよ、いけませんか?」

 そんな時だけ優しく笑ってみせるのが、ずるいと思う。わがままを言っても、浅ましい部分をさらけ出しても、許されてしまいそうな笑みは、怖い。
 ひとつ許されればきっとどこまででもずるずると縋り付いてしまう。甘えてしまう。だから、唇を噛み締める。強情ですねと言わんばかりに指が唇を割り入って、わざとその指を噛んでやれば、僅かに眉をしかめたのが見えてギルベルトはしてやったり、と笑う。
 煽られてばかりなのは癪だ。意識しているのがこちらばかりなら、尚更。少しは向こうも煽られて、こちらを見ればいいのだとギルベルトは笑う。
 からかうような相手の態度に不安になっている暇などない。こちらが困れば困るほど喜ぶような天の邪鬼だ。
 躊躇うくらいなら、それに乗ってしまえば良い。逃げられないのなら、あちらを逃がさなければ良い。
 受け身の恋はらしくない。黙っていてはわからない。欲しい物を手に入れるためならば、羞恥心をかなぐり捨てることも必要だ。

「……触れよ、もっと」

 望まれる通りの言葉を口にすれば、満足したように笑みが深くなる。つい、と伸ばされた指が顎をくすぐって、もっと、と強請るようににゃあん、とギルベルトは鳴いた。
作品名:指先のエロチシズム 作家名:やよい