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入部儀式

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4月9日

オリエンテーションが一通り終わって、新入生の部活動選びが始まる。
どれにしようかと浮かれながら迷っているクラスメイトを後目にぼくは脇目も振らず校庭の片隅にある部室棟へ足を進めた。

『サッカー部』

古めかしいプレートに記載されていた文字を確認して、扉を叩く。
入る部活は既に決めている。妖怪研究部と迷ったけれど、やっぱり小学校からやっているサッカーが大好きだから。
がちゃりと外開きの扉が開けられて、そこからぬっと大振りな刃物を片手に持った白い仮面が顔を出した。

「……」
「ひ、ひいっ……!!」

予想外過ぎる風貌に思わず悲鳴が漏れ出る。
部室間違えた!?え、いや、ちゃんと確認したよね?サッカー部だよね!!?ていうかなんなんだ!?ヤバイッ!!?
仮面の男は混乱する頭に浮かぶ疑問符を綺麗に打ち消す明るい声で

「ウェルカムッ!!」

と陽気に両腕を広げた。
鉈を持ったまま。

ぼくは逃げた。



「キャプテンっつうのは度胸がなきゃ駄目だからな。新入生が来る時期はさっきの十三みたく、脅かす担当が扉を開けるんだ。それで、悲鳴を上げない奴が新キャプテンになる」

入部届けの用紙に名前を記入しながら目の前に座るどこか犬っぽい先輩にそう説明される。一応、そうなんですかと口に出して相槌をうってみたものの、あの演出の必然性はさっぱり分からない。

「やっぱいきなりソレは刺激強過ぎねえ?もーちっとソフトにいこうぜ」
「ノーノー、これは俺のポリシーだからな」

入口付近から聞こえる会話にも突っ込みを入れたくてしょうがない。いくらなんでも怖すぎる。
爽やかなイメージのサッカー部からあんなのが出てきたら度胸云々の問題じゃあない、ぼくでなくとも間違いなく逃げる。
ちなみに、去年は魔界先輩とやらが脅かし役で、その試練を見事クリアしたのがあの仮面の鉈先輩、らしい。

「ちなみに魔界ってのはアレだ」

犬っぽい先輩が指差す方向には妙なツギハギの被りもので頭全体を覆っている人が荷物をロッカーに仕舞っている。

「……今年は脅かし役じゃあないんですよね?」
「ん?そうだぞ」

ならなんであんな被りものをしてるのだろうか。あれには触れてはいけないのだろうか。
その魔界先輩は此方の視線に気づいて、無言で軽く手を振る。
先輩相手に手を振り返すのは微妙だったので、軽く迷って会釈を返すとなぜかピースサインを返された。……意味不明だ。
そのまま軽く部室内を見渡す。
各々談笑していたり着換えていたり雑誌を読んでいたり魔方陣らしきものを書いたりしているが、多分……悪い雰囲気ではない気がする。多分。
書類に向き直ると目の前の先輩がにかっと明るい笑みを向けられる。
「まあ、悪かねえ部活だぜ?」
はい、そうですね、きっと。


コンコン。


ノックの音にざわめいていた部室内が一気に静まり返った。
“脅かし役”である鉈先輩がゆっくりと扉を開ける。
ぎぃぃぃい……と軋む蝶番がさっきよりも確実にヤバイ雰囲気を醸し出している。刺激が強過ぎると窘められていたのに余計に恐怖感煽ってどうするんですか。
ああ、これはまたぼくみたいに逃げられるんじゃ……。
最初の恐怖感を思い出し、扉を叩いた同級生に同情する。
それでも他人の驚きぶりには興味があって、息を殺して様子を窺ってみる。びっくりして転んだりしないだろうか。大丈夫かな。

「サッカー部ですよね。入部希望なんですが」

……そんな予想に反して、外から聞こえてきたのは高めの、極めて冷静なイントネーションではっきりと言葉を告げる声。
まさか、鉈先輩に全く動じていない!?
先輩の肩越しに見るのは髪を逆立て、目の部分を一つ目の模様のついたバンダナで覆っているぼくと同じ真新しい制服を着た生徒。
静まり返ったままの部室内部を覗いて、そこで初めて少し困惑したように「ここ、サッカー部、ですよね?」と声を掛ける。
鉈先輩は鉈を持っていない方の手でぽんとその人の肩に手を置いて

「……キャプテン決定」

と、彼に向ってぐっと親指を立てた。
作品名:入部儀式 作家名:桐風千代子