嫉妬
「いい加減、飽きてきた」
昼下がりの学食で、音無はそう呟いた。
それを聞いた途端、隣にいた直井ががたりと席を立つ。
「結弦さん、僕に飽きたんですか!?」
「違うって!!文人に飽きるわけ無いだろうが!!」
慌てて、音無は否定する。
周囲から色々な視線が音無の体に絡みつくがこの際気にしていられなかった。
「とにかく座れ…。誤解を招く…」
「あ、はい、すみません」
直井が大人しく座った。
「俺が言いたかったのはいい加減、学食のメニューに飽きてきたって事」
「そうなんですか?」
「ま、じゃなくて、肉うどんとかそんなのしか当たらないからなぁ…」
音無たちSSSのメンバーの学食メニューはトルネードによって、ランダムに決まる。
音無は大抵、肉うどんに当たっていた。
それでなくても、長い間、この世界にいるという事は学食を長く愛用するという事。
定番なメニューに音無はいい加減、飽きてきた。
「はぁぁ、偶にはこう、学食以外のメニューが食べたい」
「…」
ふと音無が隣を見ると、直井が他のメンバーには見せない柔らかい笑顔を浮かべていた。
「僕が作りましょうか?」
「え?」
音無がぴたりと止まる。
「音無さん、硬直していますよ」
直井が指で、音無の頬をつつく。
音無の胸がどきりと高鳴った。
「じゃなくて、文人、お前、作れるのか?」
「はい、生前は僕、1人で色々と自分の身の回りの事をしていましたから」
直井は生前、著名な陶芸家の家に生まれたが、存在をほぼ疎まれており、
使用人はいたものの放置されており、仕方なく、自分の身の回りの事を自分でやっていた。
「…」
音無は今は帽子をかぶっていない直井の頭をぽんと撫ぜる。
「あっ…」
「そっか…」
直井は嬉しそうに目を細めていた。
「と、とにかく、台所と材料があれば作れますから。明日のお昼、楽しみにしていて下さい」
「早速作ってくれるのか?」
「はい、それで結弦さんのお口に合えば、これから先、ずっと僕が作りますよ」
「…」
「結弦さん?」
「すっげー、嬉しい。ありがとな、文人」
「はい…」
直井はこくんと頷いた。
次の日の昼。
直井は屋上で音無を待っていた。
音無はお茶を買いに行っている。
「結弦さん、早く帰ってこないかな」
直井はお弁当を胸に抱きしめた。
食材は生徒会副会長の権限で集めた。
台所は家庭科室を借りた。
そして、出来上がったのが、このお弁当だった。
お弁当の中身はオムレツ、タコさんウィンナー、サラダと彩り豊かで可愛らしいものだった。
まだ音無には見せていない。
食べる直前まで、楽しみにして下さいと直井が焦らせたのだ。
「あ、あんまり傾けると中身が…」
直井がお弁当の蓋を開ける。
中身は無事だった。
直井がほっと胸を撫で下ろした。
その時、かちゃりと屋上の扉が開いた。
「ゆづ…何だ、愚民か」
笑顔から落胆そして、この世界にこんな汚らわしいものが存在していいのかの視線へと、
直井は変貌した。
「ひでぇ!!」
その視線を向けられた人物、日向は開口一番叫んだ。
「愚民は今すぐここから落ちろ」
直井は屋上の下を指差す。
飛び降りろと命令していた。
「するか!!で、直井、音無、知らないか?」
「何で、僕が愚民の質問を…」
「って、お前が持っているの、弁当か?」
「くっ…」
直井の手には蓋が開かれたお弁当があった。
そう、音無ではなく、先に日向に見られたのだ。
「…もしかして、音無にか?」
「愚民は帰れ」
日向は最近、2人の様子が前に比べて、変化している事に気づいていた。
だが、ここまで来ると2人がまるで恋人同士のように見えた。
日向の心にちくりと棘が刺した。
直井はいつまで経っても姿を消さない、日向に腹を立て、
今すぐ、催眠術で屋上から日向を落としてやろうかと思った矢先。
日向の手がお弁当に伸びていた。
「あっ…」
直井が止めるのも間に合わず、日向はタコさんウィンナーを一口で食べた。
「美味い…、お前、料理、出来るんだな…」
ちょっとした出来心と嫉妬心で食べた弁当。
だが、日向もまた学食に飽きていた人物の1人。
直井の料理の腕が相当なものだと見抜いた。
日向は心底、感心した目で直井を見る。
一方、直井は俯いていた。
日向はやべ、催眠術来るか!?と内心焦り、顔面をガードする。
だが、直井は俯いたままで、日向を見ない。
「おい、なお…」
「うっ…うぅ…」
直井は、泣いていた。
1番最初に、見て欲しかった。
1番最初に、食べてもらいたかった。
1番最初に、褒めて欲しかった。
けれど、それはもう叶わない。
そう思うと直井の目から自然と涙が零れた。
「って、男がそう簡単に泣くなよ!!」
日向が直井の肩を掴んだ。
その時だった。
ぱたんと扉が開く音がしたのは。
そこに音無がいた。
「あ、音無、直井が…」
音無はまずは直井を見る。
直井が俯いている。
次に日向を見る。
直井の肩に触れている。
結論。
げしぃぃぃぃぃ!!
音無は日向に蹴りを入れていた。
「げふっ!!」
日向が落下防止用のフェンスに激突して、めり込んだ…。
「おい、文人!!日向に何をされた!?」
「うぅ、うぅぅ…、ゆ、ゆづ…」
漸く直井が顔を上げる。
直井の頬が涙で濡れていた。
「おべんと…がんばって…作った…のですけど…愚民に…たべ…ひっく…」
そこで直井はまた泣いた。
音無は直井の頭を撫ぜて、直井の手のお弁当を見る。
彩り豊かなお弁当に少しだけ余裕があるのがわかった。
「ひーなーたー!」
音無は日向を見る。
その視線は以前、出没した、攻撃性が強い天使よりも恐ろしかった。
「お、音無…いや、その…」
フェンスから脱出した日向を待っていたのは、地獄への道だった…。
「ひっく、ひっく…」
「文人、もう泣かなくていいから…」
「ゆづ…るさん…ごめ…ん…なさい…」
「謝る必要は無いって。全部、日向が悪い」
「うっ…ひっく…」
音無は唇で直井の涙を拭いていく。
「ゆ…ゆづ…」
ゆっくりと直井の目の涙が止まった。
「もう大丈夫か?」
こくんと直井が頷いた。
「弁当、食べていいか?」
「えっ、だって、愚民に…」
「日向が食べたのは少しだろ。俺も食べたい」
「後日に作り直し…」
「しなくていいって。というか、腹減った…」
音無がわざとらしくお腹を押さえる。
直井がくすりと笑った。
「それじゃあ、食べて下さい」
「お弁当1つなのか?」
明らかに1人分しかないお弁当に音無が疑問を抱く。
「はい、その…1人分しか用意できなかったんです…材料…だから、僕はいいんです」
「じゃないだろ。一緒に食べよう」
「あ、いいですから!!」
「一緒に食べた方が美味いから」
「…はい。でも、結弦さんが先に食べて下さいね」
「…わかった」
音無は直井から渡された箸でお弁当を食べる。
丁寧な味付けをされたオムレツだった。
学食のようにくどい味付けでない優しい味。
「美味しい…」
「本当ですか?」
「ああ、ありがとな…」
「明日も作っていいですか?」
「俺が頼みたい。文人、作ってくれ」
「はい」
穏やかな時間が音無と直井を包んでいた。
一方、日向は。
「あれー、先輩、何しているんですかー?」
地面を真っ赤に染めて、寝転がる日向をユイがつつく。
昼下がりの学食で、音無はそう呟いた。
それを聞いた途端、隣にいた直井ががたりと席を立つ。
「結弦さん、僕に飽きたんですか!?」
「違うって!!文人に飽きるわけ無いだろうが!!」
慌てて、音無は否定する。
周囲から色々な視線が音無の体に絡みつくがこの際気にしていられなかった。
「とにかく座れ…。誤解を招く…」
「あ、はい、すみません」
直井が大人しく座った。
「俺が言いたかったのはいい加減、学食のメニューに飽きてきたって事」
「そうなんですか?」
「ま、じゃなくて、肉うどんとかそんなのしか当たらないからなぁ…」
音無たちSSSのメンバーの学食メニューはトルネードによって、ランダムに決まる。
音無は大抵、肉うどんに当たっていた。
それでなくても、長い間、この世界にいるという事は学食を長く愛用するという事。
定番なメニューに音無はいい加減、飽きてきた。
「はぁぁ、偶にはこう、学食以外のメニューが食べたい」
「…」
ふと音無が隣を見ると、直井が他のメンバーには見せない柔らかい笑顔を浮かべていた。
「僕が作りましょうか?」
「え?」
音無がぴたりと止まる。
「音無さん、硬直していますよ」
直井が指で、音無の頬をつつく。
音無の胸がどきりと高鳴った。
「じゃなくて、文人、お前、作れるのか?」
「はい、生前は僕、1人で色々と自分の身の回りの事をしていましたから」
直井は生前、著名な陶芸家の家に生まれたが、存在をほぼ疎まれており、
使用人はいたものの放置されており、仕方なく、自分の身の回りの事を自分でやっていた。
「…」
音無は今は帽子をかぶっていない直井の頭をぽんと撫ぜる。
「あっ…」
「そっか…」
直井は嬉しそうに目を細めていた。
「と、とにかく、台所と材料があれば作れますから。明日のお昼、楽しみにしていて下さい」
「早速作ってくれるのか?」
「はい、それで結弦さんのお口に合えば、これから先、ずっと僕が作りますよ」
「…」
「結弦さん?」
「すっげー、嬉しい。ありがとな、文人」
「はい…」
直井はこくんと頷いた。
次の日の昼。
直井は屋上で音無を待っていた。
音無はお茶を買いに行っている。
「結弦さん、早く帰ってこないかな」
直井はお弁当を胸に抱きしめた。
食材は生徒会副会長の権限で集めた。
台所は家庭科室を借りた。
そして、出来上がったのが、このお弁当だった。
お弁当の中身はオムレツ、タコさんウィンナー、サラダと彩り豊かで可愛らしいものだった。
まだ音無には見せていない。
食べる直前まで、楽しみにして下さいと直井が焦らせたのだ。
「あ、あんまり傾けると中身が…」
直井がお弁当の蓋を開ける。
中身は無事だった。
直井がほっと胸を撫で下ろした。
その時、かちゃりと屋上の扉が開いた。
「ゆづ…何だ、愚民か」
笑顔から落胆そして、この世界にこんな汚らわしいものが存在していいのかの視線へと、
直井は変貌した。
「ひでぇ!!」
その視線を向けられた人物、日向は開口一番叫んだ。
「愚民は今すぐここから落ちろ」
直井は屋上の下を指差す。
飛び降りろと命令していた。
「するか!!で、直井、音無、知らないか?」
「何で、僕が愚民の質問を…」
「って、お前が持っているの、弁当か?」
「くっ…」
直井の手には蓋が開かれたお弁当があった。
そう、音無ではなく、先に日向に見られたのだ。
「…もしかして、音無にか?」
「愚民は帰れ」
日向は最近、2人の様子が前に比べて、変化している事に気づいていた。
だが、ここまで来ると2人がまるで恋人同士のように見えた。
日向の心にちくりと棘が刺した。
直井はいつまで経っても姿を消さない、日向に腹を立て、
今すぐ、催眠術で屋上から日向を落としてやろうかと思った矢先。
日向の手がお弁当に伸びていた。
「あっ…」
直井が止めるのも間に合わず、日向はタコさんウィンナーを一口で食べた。
「美味い…、お前、料理、出来るんだな…」
ちょっとした出来心と嫉妬心で食べた弁当。
だが、日向もまた学食に飽きていた人物の1人。
直井の料理の腕が相当なものだと見抜いた。
日向は心底、感心した目で直井を見る。
一方、直井は俯いていた。
日向はやべ、催眠術来るか!?と内心焦り、顔面をガードする。
だが、直井は俯いたままで、日向を見ない。
「おい、なお…」
「うっ…うぅ…」
直井は、泣いていた。
1番最初に、見て欲しかった。
1番最初に、食べてもらいたかった。
1番最初に、褒めて欲しかった。
けれど、それはもう叶わない。
そう思うと直井の目から自然と涙が零れた。
「って、男がそう簡単に泣くなよ!!」
日向が直井の肩を掴んだ。
その時だった。
ぱたんと扉が開く音がしたのは。
そこに音無がいた。
「あ、音無、直井が…」
音無はまずは直井を見る。
直井が俯いている。
次に日向を見る。
直井の肩に触れている。
結論。
げしぃぃぃぃぃ!!
音無は日向に蹴りを入れていた。
「げふっ!!」
日向が落下防止用のフェンスに激突して、めり込んだ…。
「おい、文人!!日向に何をされた!?」
「うぅ、うぅぅ…、ゆ、ゆづ…」
漸く直井が顔を上げる。
直井の頬が涙で濡れていた。
「おべんと…がんばって…作った…のですけど…愚民に…たべ…ひっく…」
そこで直井はまた泣いた。
音無は直井の頭を撫ぜて、直井の手のお弁当を見る。
彩り豊かなお弁当に少しだけ余裕があるのがわかった。
「ひーなーたー!」
音無は日向を見る。
その視線は以前、出没した、攻撃性が強い天使よりも恐ろしかった。
「お、音無…いや、その…」
フェンスから脱出した日向を待っていたのは、地獄への道だった…。
「ひっく、ひっく…」
「文人、もう泣かなくていいから…」
「ゆづ…るさん…ごめ…ん…なさい…」
「謝る必要は無いって。全部、日向が悪い」
「うっ…ひっく…」
音無は唇で直井の涙を拭いていく。
「ゆ…ゆづ…」
ゆっくりと直井の目の涙が止まった。
「もう大丈夫か?」
こくんと直井が頷いた。
「弁当、食べていいか?」
「えっ、だって、愚民に…」
「日向が食べたのは少しだろ。俺も食べたい」
「後日に作り直し…」
「しなくていいって。というか、腹減った…」
音無がわざとらしくお腹を押さえる。
直井がくすりと笑った。
「それじゃあ、食べて下さい」
「お弁当1つなのか?」
明らかに1人分しかないお弁当に音無が疑問を抱く。
「はい、その…1人分しか用意できなかったんです…材料…だから、僕はいいんです」
「じゃないだろ。一緒に食べよう」
「あ、いいですから!!」
「一緒に食べた方が美味いから」
「…はい。でも、結弦さんが先に食べて下さいね」
「…わかった」
音無は直井から渡された箸でお弁当を食べる。
丁寧な味付けをされたオムレツだった。
学食のようにくどい味付けでない優しい味。
「美味しい…」
「本当ですか?」
「ああ、ありがとな…」
「明日も作っていいですか?」
「俺が頼みたい。文人、作ってくれ」
「はい」
穏やかな時間が音無と直井を包んでいた。
一方、日向は。
「あれー、先輩、何しているんですかー?」
地面を真っ赤に染めて、寝転がる日向をユイがつつく。