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しぇいみとれっどさん。

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僕は、丘に立っていた。

一面緑の草が生い茂る広い丘。
優しく吹いてくる微風が気持ちいい。
四方に続く地平線。
少し先に進んでいくと、それが途切れて崖が現れた。
崖の向こうには蒼い海が広がっている。
あたたかい太陽の光を反射してきらきらと輝く水面。
空と海がどこまでも続いていて、見ていると開放的な気分になる。


深く息をして、改めて前を見る。
すると、崖の少し手前に何かあるのに気がついた。
一面の緑の中に一つだけ、白い色。
近づいて見てみれば、それは石碑のようだった。
でも、何も書かれていない。
その石は真っ白で、覗き込めば鏡でも見ているかのように自分の姿がくっきりと映される。
傷一つ付いていない、綺麗な石。
ふと、前に博士に聞いた話を思い出した。
どこかの地方で発見されたという、鏡のような白い石。
それは感謝の思いを刻むもので、一番にありがとうを伝えたい人の名前を書くらしい。
もし、この石が博士の言っていたものと同じなら。
そう思って一番最初に出てきたのは、彼の名前だった。
勿論、他のたくさんの人にも支えられて今の僕はある。
けれどもいつも近くにいて、何かと僕に尽くしてくれている、
そんな彼に一番を捧げたい。

側に座って石にそっと触れると、その部分が綺麗に削れた。
そこから一字ずつ、ゆっくりと、丁寧に書いていく。
最後の一文字を書き終えて指を離し、控え目に刻まれたその名前を見て、

“ありがとう”

そう小さく呟いた。



直後。
急に、ざあ――…と強い風が吹きつけた。
思わず手を前にかざし、目を閉じる。





しばらくするとその風が止み、さっきまでのような心地の良い風へと戻った。
それと同時に、風が吹く前にはなかった甘い香りを感じる。


手を下ろして目を開ければ、信じられないような光景が目に飛び込んできた。
緑ばかりであったはずのこの広い丘と崖。
そこに今は余すところなく花が咲き乱れていた。
赤、青、黄、淡い色も、濃い色も。
色とりどりの花がたくさん咲いている。

唖然として座り込んだままそれを眺めていると、横で何か音がした。
その方向に目をやると、花をかき分けて何かが近づいてくるのが見える。
それはやがて自分の前で止まり、かさっと音を立てて姿を見せた。
小さくて白い身体に、緑の毛で覆われた背中。
頭の横に大きな花と葉っぱがついている。
僕を見て首を傾げる、
この子は、ポケモン?

そっと抱き上げると小さく鳴いたけれど、抵抗する様子はない。
ふわふわとしている背を優しく撫でてやると、その子は気持ち良さそうに目を閉じる。
そしてその背に、周りの花に負けないくらいのきれいな花を咲かせた――… ……















― ………。





あたたかい。

そのあたたかさに顔を埋めれば、何かに頭を撫でられた。…気がした。

「…?」

何だろうと思ってゆっくりと目を開け、顔を上げれば。


「あー、悪い、起こしたか?」


間近にグリーンの顔があった。

あのあたたかいのはグリーンだったのか、とまだ覚醒しきっていない頭でぼんやりと考える。
ああそういえば、グリーンにもたれ掛かってそのまま寝ちゃったんだっけ。
ということは、さっきのは、夢。
やけに鮮明に覚えている。
まるで実際に経験したみたいだ。
あの見たことのないポケモンは一体なんだったのだろうか。
実在するのか、ただの僕のイメージなのか。
…なんでもいいや。
未だ眠い頭を使うのが面倒になって思考を放棄する。
でもそういえばあの夢の中で一つ、確実だと言えるものがあった。


「グリーン」
「ん?」
「…ありがとう」
「え?…あ、ああ…どういたしまし、て?」


突然の感謝に戸惑うグリーンがおかしくて、僕はつい笑ってしまった。
理解ができないとでも言うように顔を歪めたグリーンの胸にもう一度顔を埋めて目を閉じる。
やっぱりまだ眠気が取れていなかったらしく、僕はすぐにまた意識を手放した。





グリーンへの感謝の気持ち。

それは、ずっと前から僕の心の石碑にしっかりと刻み込まれていた。
作品名:しぇいみとれっどさん。 作家名:るう