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【DMC】反逆エナンチオ

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なんとはなしに見つけてしまったそれに、トニーの目はしばし釘付けになった。

後頭部に目でも付いていない限り当人には分からないであろう『それ』。

どう対処したものかと、トニーが考えあぐねていると、ギルバが振り返りざま払った血の飛沫が足下で跳ねた。


「何の用だ」


顔の形が分からないほど巻かれた包帯の間から覗く静かな青い目とかち合う。

なるたけ眼力を殺したつもりでいたが、ギルバはいつも目敏く感づく。


どうもトニーの動きを無意識に追っている節がある。


付いた血を懐から出した紙――フクサと言うらしい――で拭き取ると、刀を鞘に納める。

その間も視線がトニーから外されることはなかった。


「自意識過剰だろ?」


男同士で見つめ合う。

今の状況に薄ら寒さを感じつつ、トニーは先に目をそらし、大袈裟に肩をすくめて見せた。

だが、そんな事は気にも止めないのか、気まずさが原因ではない沈黙をギルバは守る。

トニーの横顔を捕らえた目は、得体の知れない激情を押し殺そうとしている固さがあった。

些細な動きにさえ、彼が過剰反応するようになったのはいつからだったか。

日増しに好意とは違う異常な執着をあらわにしだしたギルバと、トニーはそれでも組み続けていた。

こうして目の当たりにしてさえ、そのことに触れようとはしない。

また気付かぬふりをして、気にするなと手を振り何事もないように平静を装う。

両手の中でまだ熱を御し切れていない銃をホルスターにねじ込むと、トニーは視線に背を向けて立ち上がった。

そうしなければ、間合いの内まで詰められた距離では、今の自分の顔を見られてしまうから。


「さて、仕事も終わったことだし俺は穴蔵へ帰るぜ。何なら、あんた、また酔潰れるまで俺と飲むか?」

「断る」


おどけた科白で、鬼気を孕んでいた視線が揺らぎ、あっさりと外される。

やはり酒の話は鬼門らしい。

その豹変ぶりにトニーが吹き出している間にも、鬼気の残滓を振り払いギルバは大通りの方へ歩き始めた。


正気と狂気、昼と夜の間で心が揺らいでいる。

どちらがどちらかさえ判別が付かない緩やかな変化で。

少し触れ方を変えるだけで、容易に天秤が傾く。


なんてからかい甲斐があるんだろう。楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい。誰が親切に教えてやるもんか。

心の底で悪魔が囁く。

何も知らない間抜けなギルバ。

月も出てないこの夜に、そのことを知っているのは俺一人。


「せいぜい背後に気を付けて帰るんだなギルバ」


闇に溶けていく背中に、からかい半分、聞こえはしない忠告を投げ掛ける。

もう振り返らない奴の、包帯に覆われた首筋。

巻くとき外に出ているのに気付かなかったのだろうか。

そこから、ほんの一房、銀の髪がはみ出している。


視界に入るのと同じ銀の髪。

誰が親切に教えてやるもんか。

こみ上げて来る衝動に耐えつつ、がらにもなく、信じてもいない神に、奴が誰ともすれ違わずに寝床へ帰る事を願った。

心の底で悪魔が囁く。

何も知らない間抜けなギルバ。

月も出てないこの夜に、そのことを知っているのは俺一人。

お前はいつまでも俺の真実に気付かなければいい。