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【サンプル】 あめふるひに

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雨の日は二人の距離がいつもと違う。少なくとも正臣はそう思っている。傘を考えた人間は雨に濡れないことだけを考えていただろう が、恋人達からすれば公共の場で二人の世界を作れる道具だ。正臣と沙樹にとってもそれは例外ではない。鮮やかな黄色の傘は 少し大きめで、二人を雨から守るのも、周囲からの目を避けるのにも十分だった。
「雨、思ったほど降ってないね」
傘から少し手を出し、沙樹はそんな感想を述べた。それに倣うように正臣も傘の外に手を出す。手に当たった雨は小粒でサラサラとしている。雨の量を考えると、傘の必要性も疑われる。
「ほんとだな」
「傘、どうする?」
「いいんじゃない?このままで。せっかく久々に一緒に歩く訳だし、こう密着せざるを得ない環境とかいいと思うんだけど。沙樹は?」
「いきなり雨が強くなっても困るから、さしたままでいいかな」
「密着はスルーですか沙樹さん」
「え、そんなこと言ってた?」
きょとんとした顔で問い返す沙樹に正臣はがくんと肩を落とす。
「言った。サラッとだけど言った。あれか、大切なことは二回言わなきゃいけないのか」
「うそうそ。ちゃんと聞いてたよ」
そういって、沙樹は傘の柄に自分の手を添える。正臣の手を包むように置かれた沙樹の手。少し冷たくなった手と、傘の柄を包むように正臣は自分の手を組み替えた。
「沙樹ってさ、ほんといい性格してるよな」
「そう?ちょっとからかってみただけだよ」
「からかう内容がひどい」
「そうかな?」
「うん。…もしかして沙樹、疲れてる?」
欲求や要求の表出が苦手な沙樹は、いつもと少し違う口調や態度でそれらを表出させる。ほんの些細な違いなので、普段の沙樹をよく知らない人間にはまず分からない。逆に、普段の彼女をよく知っていれば、違いは分かる。正臣がその事に気付いたのはつい最近のことだ。
「…ちょっとだけ」
「そっか。もう少しだけど、行けそう?」
「…うん」
気遣う正臣に沙樹は微笑を返す。素直に答えてくれた沙樹に安堵しながら、正臣は目的地へ行く足を少し早めた。