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年下の男の子

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夕飯時をとうに過ぎ、すっかり静かになった食堂。
そこには御幸一也と降谷暁のバッテリーコンビが向かい合わせて座っている姿があった。
降谷が黙々と口に運んでいるのは、カニ玉だ。今夜のメニューでも何でもないが、ここしばらくどうもカニ玉が食べたい気分だったらしい降谷が、食堂のおばちゃんにどうしてもと特別に作ってもらったものだった。
相変わらず部員たちのなかでは食が細い方なくせをして、夕食の後にこれがきちんと入るのかと聞けば、これは別腹なのだと真面目な顔で言うのだ。女子高生ではあるまいし、まったくふざけた奴だと呆れてしまう。
それでどうしてまた御幸がそれに付き合っているのかと言えば、この後投球練習をしたいから待っていてくれと、強引に呼びとめるのに根負けしたからだった。服の裾をしっかりつかまれ、無言の圧力と共に見つめられれば、逃げる術を探すのを諦めるしかない。その天然の図太さには、もうため息しか出てこない。
逆の立場ならともかくとして、どうしてまた後輩の都合に付き合わされているのか。昼間に練習の約束なんて承諾するんじゃなかったと、今更ながらに後悔をする。
行儀悪く斜めに腰掛けて、頬杖をつきながら食べる降谷をただ眺める。
(大きなカニ玉頬張る、ネイビーブルーのTシャツ……ってところか)
御幸が胸の内で口ずさむのは、彼の生まれる随分前に流行したポップスだ。
この歌を知っているからといって、もちろん御幸が懐メロ世代というわけではない。先日、久しぶりに実家に帰った時、やけに上機嫌の母親が料理をしながら口ずさんでいたのを思い出したのだ。
実際の歌詞の上では、真っ赤なリンゴとなっているが、こうして物を食べているという点では、まあ同じだろう。その上何か歌詞と示し合わせたかのように、今日の降谷は紺色のTシャツを着ていた。
「御幸センパイも食べますか?」
じっと見つめる視線を、自分に注がれているとは思ってもいない能天気な調子に思わず気も抜けてしまう。
それよりも早く食べてしまえ、と言いかけたのだったが、急に気が変わった。
「なあなあ降谷」
カニ玉に夢中だった降谷の視線が御幸の方をじっと見つめる。
「俺のこと好き?」
降谷には通じていないかもしれないが、ほんの少しだけ皮肉の意味合いも込めて聞いてみたつもりだった。
俺とカニ玉と、どちらが大事?なんて。
結果は待つまでもなかった。ほとんど即答に近く答えが返ってきた。
「はい。大好きです」
表情一つ変わらない。にこりとも笑わない。
けれど何のてらいもなくあっさりととんでもない事を言ってのける。
不覚にも嬉しさと共にときめきすら覚えてしまう。
(寂しがりやで、生意気で、憎らしいけど好きなの、ってか……)
歌詞の一節がやけにリアルに当てはまる。
ああだこうだと言いながらも、結局は自分も降谷の事を受け入れてしまっている。好きだからという単純なそれだけの理由で。
なんだか悔しいような気がして、食堂の中には自分たち二人だけなのを良い事に、軽い調子で素早くキスをしてやった。
カニ玉の味のするキス。
ムードもへったくれもないが、それでもこれで十分だ。
唇が離れ、降谷の顔を見てみれば、僅かに赤く染まった頬。変わらないように見える表情にも、照れが見え隠れしている。
その変化をしっかり目の当たりにして、つい、にやりと顔がにやけてしまう。これだから降谷の事を見ているのは飽きないのだ。

こいつはこんなに可愛い年下の男の子。
俺だけが知っている、可愛い可愛い年下の男の子。

作品名:年下の男の子 作家名:ヒロオ