ばったり。
「ごめんなさい、今日はもう満室で…。他の人と相部屋なら空いてるのだけど…それでもいいかしら?」
「ぇ…あ、はい…」
「じゃあ、部屋の人にも確認してみるわね」
旅の途中で立ち寄ったポケモンセンター。
もう外は暗いし、ポケモン達も大分疲れているから、今日はここの部屋を借りることにした。
けれど他の人との相部屋になってしまって、コミュニケーションが苦手な僕は内心焦っていた。
思わず返事しちゃったけど、初対面の人と一晩一緒だなんて大丈夫なのだろうか。
「レッド君、あなたの部屋はここよ」
部屋の人と連絡を取っていたジョーイさんが受話器を置いて、センター内の見取り図を指しながら言った。
どうやらOKが出たらしい。
野宿にならなくて良かった、と思う反面、やっぱり怖くもあった。
果たして上手くやれるのかどうか。
優しい人だったらいいんだけど…。
ジョーイさんにお礼を言って、割り当てられた部屋へと向かう。
頭は今日の一晩ちゃんと過ごせるかどうか心配でぐるぐる悩み続け。
そのせいで足も少し重く感じる。
ゆっくりと階段を上って、その先を右、奥から三番目の部屋。
…ここだ。
ああ、どうしよう、入る勇気がない。
とりあえずノックすれば…いい、かな?
そう思ってはみたけれど、それすらも戸惑って手が止まってしまった。
でもこんなところでずっと立ち止まっているわけにもいかない。
部屋の人も、僕がなかなか来なくて不審に思っているかもしれない。
早く、しないと。
一つ、深呼吸をして。
…大丈夫、きっと上手くやれる。
ゆっくり、軽く、扉を叩く。
『どうぞ』
中から声が聞こえて、僕はノブに手をかける。
また言いようのない不安が襲ってきたけれど、もう迷っていても仕方ない。
思い切って、扉を開いた。
「なんだ、相部屋の相手、お前だったのか」
「え、」
僕を知っているような言い方に驚いて、無意識に閉じてしまっていた目を開ける。
すると飛び込んできたのは、
「グリーン…?」
幼なじみの姿だった。
…旅でしばらく会ってないから、声では気付けなかったんだ。
見慣れた姿に安心して気が抜けて、扉を開けたままその場に座り込んでしまった。
「なにそんなとこで座ってんだよ、早く入れ」
「…動けない」
「はあ?」
グリーンが呆れたような表情で頭を抱えた。
息をついて立ち上がり、僕の方へ近付いてくる。
「情けねーやつ。ほら」
差し出された手を取って僕もやっとのことで立ち上がる。
その後グリーンが扉を閉めて、手を引かれて一緒に部屋の中へ。
ベッドに座らされ、向かいに座ったグリーンに相変わらずお前は、なんてため息をつかれて。
それから始まるグリーンのこれまでのジム戦や図鑑などの自慢話。
それに相槌をうちながらそっと胸を撫で下ろす。
グリーンで、良かった。
緊張の糸が切れたせいか、どっと疲れて眠くなってきた。
晩御飯の時間まで少し眠ろう。
ベッドに横になるとまだ話の途中だってグリーンが騒いだから、少し経ったら起こしてと話の繋がらない返答をする。
納得していない様子のグリーンの声はもう遠く意識の外、僕は睡魔に誘われるままに眠りに堕ちていった。