きみのてはまほう
佐藤くんの手で作られる料理はまるで魔法だ。
彼はこの厨房で行われるどんな調理も手際よくこなす。
手早すぎてこれ適当なんじゃないかと思えば、その味は絶妙で。
その料理を見つめながら、俺は本気で考えていたんだ。
本当に、佐藤くんの手から魔法が出てるんじゃないかって。
「……何見てんだ」
「佐藤くんの手だよー」
「んなもん見りゃ分かる」
俺が聞きたいのは。
何で俺の右手を掴んで凝視してるんだってことだよ。
そう言って佐藤くんはしかめっ面。
あー、やっぱり仕事中に右手を拘束するのはいけなかったかな。
そう思いながら、でもやっぱり面白いのでその手を離さず言った。
「いやーどこから魔法が出てるのかなと思って」
「……は?」
あ、意味分からないって顔してる。
「佐藤くんの料理、美味しいから。
どこかから魔法が出てるんじゃないかなって思って!」
「……」
無言で佐藤くんは俺が掴んでいた手を振り払った。
うわ、そんな憐れむような目で見ないでよ佐藤くん!
俺かわいそうまさんじゃないよ!普通だよ普通!
ただ本当に気になったから!その秘訣を聞こうとしただけであっ
「て……?」
……手だ。
佐藤くんの右手。
……俺の頭、わしゃわしゃしてる。
「魔法じゃねえ、慣れだ。
お前もいつもサボってないで調理しろ、そしたら上手くなっから」
ぽんぽん。
その手は俺の頭を軽く叩いて、離れた。
「……う、ん」
「仕事中だ、調理すっぞ」
そう言ってくるりと厨房の方へ向かう佐藤くん。
ねえ、やっぱり佐藤くんの手からは魔法が出てるんだと思うよ。
だって俺、今すごく嬉しいんだ。
佐藤くんの手には、ひとを幸せにする魔法が詰まっているんじゃないかなあ。
そう言ったら、うるせーそれ以上かわいいこと言ったら殴るって言われた。
顔は見えなかったけど、佐藤くんの耳はほんのり赤く染まっていた。
きみのてはまほう
(ふれて まほう かけて)