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嘯く、囁く、魔法の言葉

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「聴かせられなかったのかい?」
 臨也の柘榴石の瞳が彼女を射抜く。彼女は、その時初めて人間に対し恐怖という感情を抱いた。妖刀という、人間に恐怖を与える筈の存在である彼女が、人間に圧倒された。彼女は折原臨也のような人間を全く知らなかった。化け物である彼女を上回る人間が居るなどとは微塵も考えたことがなかった。彼女は口を閉ざす。目にものを見せるどころか、見せられたのは彼女の方だった。
 それは奇しくも、彼女の子供達が平和島静雄に対して抱いた恐怖と酷似していたのだが――彼女がそれを知る由はない。
 臨也は彼女から視線を外すと、隣に倒れた彼女の宿主を見る。そして、やはりにっこりと人好きのする笑みを浮かべ、届く筈のない言葉を語り掛けた。
「どうやら俺は、君の刀より化け物らしいよ。」
 そのまま臨也は踵を返してその場を後にした。まるで、楽しい玩具で遊んだ子供のように軽やかな足取りで。
 後に残されたのは、敗北した刀が一振りばかり。