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未来宇宙

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 未来だ宇宙だ、訳の解らないことを口にして奴は両手を広げた。めいいっぱい
広げた。
 なんでも、星を超えた先に日輪が在るんだと言う。大方、あの恰幅のいい南蛮
人に吹き込まれたんだろう。
「我は見据える、誰にも見えぬ読めぬ感じ得ぬ未来を!」
 異様だ。
 あの南蛮人がいくら上手く言ったとしても、奴が、毛利がこうまで信じこむこ
とがあるのか。今の様な毛利を目にするのは初めてだ。
「よいか、誰にも、誰にも、だ、貴様だけではない、ザビー様にも! あの御方に
も!」
 瞳が爛々と輝く。なにか得体の知れない力が働いている、そんな考えが頭をよ
ぎった。得体の知れないものなんざ、毛利には幾らだってあるだろうに。俺はそ
れを知った上で奴を追っているのに。毛利はそれすらも理解して得体の知れない
ものを己の内に取り込んじゃあチラと見せ、また仕舞い込む癖に。ああそうだ、
いつだって互いの尾っぽを追い回すばかり。
「我のみに拓かれた」
 昇陽の刻。海の果ての先を輝かせながら日輪が姿を見せる。奴も海の果ての先
を見据える。
「で、だ。拓かれたってのは、これか?」
「否」
 即答。斬る様な否定だ、鋭く、隙が無い。
「長曾我部。目に見えるモノのみ信ずるは愚か者の生き様よ」
「ならアンタは?」
 見た横顔がふっと笑んで目を細める。
 陽光を受けて輝きを増した瞳はコガネで、田畑が実りの色に染まる様によく似
ていた。
「我を愚かと言うならば、それはザビー様を愚かと言うに同じこと。……死ね」
 毛利が何かしらに対して死ね、と口にするとき、俺は何時も必ず同じことを考
える。何故奴の言う“死ね”は美しいのかと。奴の“死ね”は肉体を殺すより先
に心を殺していると。殺す心は相手のものであり、奴自身のものでもありそうだ
と。
「我は生きる、貴様は死ぬ、全ては運命。それは宇宙に散りばめられた星々に記
されているという、目には見えぬ、感じるべきもの。そしてその先に、日輪が、
今拓かれた先に!」
 今回ばかりは俺が手出ししてどうこう出来る話じゃあ無さそうだと悟る。
 数歩離れて振り返ると、毛利が再び広げた両腕に昇る日輪がぴったり納まって
、奴は輝きの中に在った。
「アンタもそのまま死ね。大好きなお天道さんに焼かれて死んじまえ。いっぺん
焼かれて得体の知れねェもん全部祓って貰えばいい」
 ひとりごちる。
 未来とやらに期待している自分はやはり愚かだ。






作品名:未来宇宙 作家名:みしま