364日キスを
ロマーノが大きなスプーンでガスパチョを流しこんでくれた。トマトのたっぷり入った冷たいスープは本来、夏に食べるものだけど、野菜たっぷりの酸味はものが食べられないときには一番の御馳走だ。
「せっかく具合がよくなったのに、また怪我しやがってバカヤローめ」
口は荒いが、スプーンの動きはゆっくりで、やわらかく舌の上に載せてくれる。喉に乱暴に突っ込むなんてことしないロマーノの指が好きだ。料理のやけどや土いじりで細いのに皮だけが厚くなっている指だ。
パラシュートなしに飛行機から落ちた国は聞いたことがあるが、山から二人で落ちた国もそうそうないだろうな、と切れた口の中にスープが染みるのを噛みしめる。
ロマーノはさいわい傷一つ付かなかった。とっさに受け身を取ったし、上手く森に落ちれたけれど、高度数百メートルはいったんね。愛の高さは偉大だ。
「来年もロマーノの誕生日の頃、俺具合悪くなると思うから看病してくれなー」
「俺が独立したのが、お前の不調の原因なのにそれでいいんかよ」
「ええんよ。そりゃぁ、家具や壁の代わりにちょっぴりロマーノに当たっちゃうかもしれんけど」
「言っとくけど、俺の手足はそのベッド枠より簡単に折れるからな。もげるからな」
「大丈夫やで。ちゃんとロマーノへのプレゼントになる感じで、気持よく当たるから!」
「一生寝てろ」
頭突きをされて枕に沈められた。おでこがひりひりするけれど、ロマーノの顔がアップになって見とれてしまう。
顔の上半分は痛いけれど下半分がしあわせで笑ってしまう。だってちょっとだけ唇が触れて、ちゃっかり肩に手をまわしてもロマーノはこれ以上怒らなかった。
プレゼントを上げる器用さもお金もないけれど、せめてもとたっぷり甘やかそう。誕生日の日も、それ以外も。独立前だって甘やかしていたけれど、独立後はもっともっと甘やかせられる。だって、離れた場所ではもうきちんと兄弟で立って歩けるのだ。
独立されちゃった日は祝えなくたって、残りの日にプレゼントしちゃえばええ。ほぼ毎日が誕生日や。少なくともロマーノと一緒にいられる日は。
ロマーノの指からスプーンが落ちて、地面に音をたてた。大理石の床で良かった。ロマーノばかり見てても気づけて、久しぶりのキスに指先まで吸われてしまっている反応がとてもよくわかるから。
fin