伸ばした理由 幼馴染といっしょ
じめじめ
この時期のまとわりつくような暑さが苦手だ
それに加えて、髪が襟足に張り付いて気持ちが悪い
伸ばした理由 幼馴染といっしょ
「静緒、もしかして伸ばしてる?」
静緒がぺたりと汗で張り付いた髪を掻き上げたのを見て、新羅は尋ねた。
この幼馴染は女らしさのなさに定評がある。
高校に入学して再会した時、自分と同じブレザーを着ていたのを見て、性別を間違えて記憶してたかなぁなんて思った。
「なんでそっちなの」
「女装にしか見えなかったんだよ」
自分よりよほど似合う制服姿に、自分はなんと返しのだっけ。
まあ、いっか。
「どういう心境の変化かな?」
「なんもねぇよ」
プイと不機嫌に逸らされた頬は、不自然に赤い。
素直じゃないところは、愛しの同居人に似ている。
それから、照れ屋なところも。
人外って似るのかな。
まあ、静緒は人なのだけど。
それもまあ、いっか。
「そういえば昨日ね、セルティが僕に夕飯を作ってくれたんだ」
「よかったじゃねえか」
「うん。ちょっと、味噌汁がしょっぱくて、ご飯がちょっとやわらかくて肉じゃがは個性的な味がしたんだけどね!」
「…セルティ、料理できないのか?」
「出来るよ!だって、私は昨日食べたんだから!」
新羅の言葉に、静緒はちょっと微妙な顔をした。
「元気みたいだな」
「うん!私はセルティが居ればいつだってね!」
「ちげぇよ、セルティが元気みたいだなって言ってんだ」
「そうだねぇ、まだ探し物は見つからないみたいだけどね」
「そっか」
「うん。あんまり言いたくはないけど静緒もセルティに会いに来たら良いよ」
「言いたくないのにか」
「だって、一人占めにしたいんだもの」
「………」
「でも静緒はセルティの友達だからね。たまになら仕方ない」
「よくわかんねぇの」
「まあ、恋なんてわからないものだよ」
そうまとめた新羅に、静緒はぽかりと目をまるくした。
何か、おかしなことを言ったかなと新羅は思う。
でも、静緒にしたら新羅の言葉はいつだっておかしなことだれけなので、そんな反応は今更だ。
「静緒?」
「わからない、のか?」
「ん?」
「おまえも、恋、が、わからないのか?」
静緒の言葉に、今度は新羅が目をまるくした。
ぽかんと、目も口もまるくして静緒を見返すことしかできない。
「なんだよ」
「いや、君の口からそんな言葉が出るだなんて!まさに晴天霹靂!!」
「殴るぞ」
「ごめんごめん、やめて!いや、でも良いことだね!!そっか、静緒も恋か!!!」
ふふっと、嬉しそうに新羅は顔を綻ばせた。
ちょっと、暁天が見えてきたぞ。
静緒が恋するなら、きっとセルティだって恋をするに違いない。
にこにこからにやにやに、顔がだらしなくなった幼馴染に静緒は顔をしかめた。
「新羅、きたない」
「うわ、ひ…ひどい、ひどいよ、静緒!!思いやりが足りない言い草だね!!」
「…いらないくせに」
「そうだね!僕がほしいのはセルティからの思いやりだからね!」
「……もう、いい。今日、新羅ん家行く」
「ええ!?」
とうとう拗ねたように静緒は唇を尖らせた。
もう決めた。
そう言って静緒は覚束ない手付きで携帯をいじり出す。
ぽちぽちと、壊さないよう慎重にメールを打つ姿はなんだかいじましい。
因みに送信相手なんて、言わずもがな・だ。
すぐに返ってきた了承のメールを、得意げに見せる静緒に新羅はまあいいかと苦笑した。
end
ていうか、セルティのメール僕にくれるのよりずっとかわいいいんだけど!
作品名:伸ばした理由 幼馴染といっしょ 作家名:Shina(科水でした)