赤い夢
誰かの叫びと、誰かの悲鳴、嗚咽混じりの呻き声。
燃え盛る炎の中で、悠然と立つ影。
それは赤く、そして黒く、ひどく醜悪だった。
その影の足元に転がる何か。
それは炎に煽られ、黒い何かと化している。
その有様を、遠くから眺めている少年。
まだ5歳くらいの子どもだ。
「パパ………ママ………?」
この少年は、村の外へと遊びに行き、今し方帰ってきたところだった。
帰ってきた瞬間、少年は偶然にも見つけてしまった。
その足元に転がる、二つの顔を。
少年の両親だったモノ。
それは赤黒く焼け爛れ、一瞥しただけでは個人を判別できない。
しかし、少年は理解してしまった。なぜか、わかってしまった。
足元に転がっている物体が、自分の両親なのだと。
理解したとたん、溢れだす涙と嗚咽、慟哭。
それを聞いてか、影が少年へと近付く。
「さぁ、帰ろうか。No.8。お前の家へ。」
その影は、声をかけながら少年へと手を伸ばす。
「なにをいってるの?
ぼくの名前はサクヤだよ?」
少年は、伸ばされたから離れながら、自分の名前を告げる。
「全て忘れている、か。
だがそんなことは関係がない。
お前はもう一度役に立ってもらうぞ。」
影の腕は、少年を乱暴につかむと、首に手刀を落とす。
そして少年を肩に担ぎ、その場を去って行った。
残されたのは無数の焼け焦げた遺体と、燃え盛る村だった。
少年は暗闇の中、夢を見ていた。
それは、苦痛と恐怖と憎悪しかない夢。
その中で蠢く、無数のモノ。
それは人であったり、ポケモンであったり、タマゴであったり。
少年は、見つけてしまった。
蠢くモノの中にいる自分を。
なぜか、自分は立っていた。
その他を見下した目で。
そして隣には、本来赤茶色であるはずの体。
綺麗な毛並み、六本の尻尾は同じだが、色が違うのだ。
そしてその身体は薄い緑に染まり、少し輝いて見える。
その小さな目は赤に染まる自分を見ており、何かを待っているようだ。
「――――――――」
自分が何かを言った、その瞬間。
全てが炎に包まれる。
それと同時に、全てが消え去った。
次に見えたのは、白の世界。
仰向けの身体を起こし、自分の姿を確認する。
そこにあるのは夢で見たものよりも大きな手。
これも、夢なのか。
それとも、もう目覚めているのか。
まだ少しふわふわした感覚のまま、寝ていたベッドから降りる。
少しだが、頭痛がする。
だが、そんなことはどうでもいい。
「クチナシ。」
「コーン。」
返答は、すぐ近くから聞こえた。
そして同時に、足に何かがからみつく感覚。
それは不快なものではなく、心地よいもの。
からみついているのは、とても綺麗な9本の銀色。
「あぁ、そこにいたのか。」
ゆっくりと手を伸ばし、クチナシの頭をなでる。
「コーン」
その声は楽しそうで、嬉しそうで。
少し前に見た夢を忘れさせてくれる。
たとえそれが己の過去だとしても。
今、隣にいるポケモンが原因だとしても。
その存在は、安らぎを与えてくれる。
さぁ、赤の夢は忘れて。
この白を、黒に変えて。
今いるべき場所は、ここではないから。
さぁ、帰ろう。