ジレンマ
「やってらんねぇ…」
「そーよねぇ…」
俺がぼそりと呟くと後ろからメイコ姉の声がした。
「メイコ姉もそう思う?」
「そう思うもなんも…バレバレじゃない」
くいっとメイコ姉が顎で示した先。
いるのはミク姉とカイト兄。
歌の練習してるんだかイチャつきあってんだかわかったもんじゃない。
ちょっと指が触れたくらいで何真っ赤になってるんだか…。
俺なんて好きな相手が顔面に胸を押し付けてきたり目の前で下着姿になったりするというのに…。
…男として意識されてないってことか。
悲しいなぁ、俺。
「なんでくっつかないのかしらねぇ、あの二人」
そんな俺の心の嘆きなんぞは露知らず、はぁと溜息混じりの呟きが聞こえてきた。
溜息吐きたいのはこっちだっての、という声は綺麗に心の中にしまっておいて言葉を返す。
「っとに不思議だよな…。
でも、それ言うならがくぽとリンもじゃない?」
がくぽとリンもあそこまであからさまではないものの、二人が並んでいるとそこはかとなく甘ったるい空気が流れる。
たまに見詰め合って、それに気付いて赤くなってるしな。
「ともかくもう家中が甘ったるくってやんなっちゃうわよ。せめてくっついてるんだったら冷やかして憂さ晴らしできるってのに…」
「甘いものは酒のつまみにはならないもんなー」
以前バナナチップを差し出したら、断られたっけ。
それ以来酒を飲んでいるメイコ姉におやつのお裾分けはやめた気がする。
変わりにあたりめ持っていったりな。
「そーそー。だから見てるとじれったくてじれったくて…」
「きっかけ作ってもスルーする天然っぷりだしな、全員」
「あれは犯罪級だと思うわ、私は…」
この状況を打破するべく、メイコ姉と二人で画策した時もあった。
そしてその作戦はことごとく天然パワーの前に敗れ去ったのだった。
それ以来、俺らはあいつらのために骨を折ろうという気は完全に消え去ってしまったわけで。
「でもだからといってほっといても害があるんだよなぁ…」
「ほんっと困りモンだわ」
「だなー」
俺からすれば、メイコ姉とのこの距離も困りモノなんだけど。
まぁそれは言わぬが花、というものだろう。
この距離も悪くはないし。
俺はやるときはやる男だからな。
…多分。
――その頃の4人組――
「それにしてもなんでレンって告白しないのかしら?じれったいったら!!」
「レン殿は“しゃい”なのであろう」
「シャイってか奥手なんじゃないかなぁ?」
「どちらにせよ、二人とも好きあってるんだから早く付き合っちゃえばいいのにねぇ」
知らぬは己ばかりなり、というお話。