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ハッピーエンドのそのあとで

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ハッピーエンドのそのあとで

ソビエト崩壊。
アルフレッドがその知らせを聞いたのは、おそらくどこの国よりも早かっただろう。

「やったぞ!」

その知らせを聞いた時、アルフレッドは思わずガッツポーズをした。長い戦争がやっと終わる、しかもアメリカの勝利で、だ。嬉しくないわけが無い。

(やはり正義は勝つ、俺はヒーローなんだ!これでハッピーエンドだ!)

他の国のみんなに知らせて、パーティをして、それから……そこまで考えて、アルフレッドはふとイヴァンの事を思いだした。敗北した彼はこれからどうなるのだろう。イヴァンとは知らない仲ではないし、きっと今頃は彼も反省しているに違いない。
まずはイヴァンに会いに行こう。そして彼が謝ってきたら、こう言ってやるのだ。

――過去のことはいいじゃないか。これからは力を合わせて一緒に地球を守っていこう!

悪者が悔恨して、ヒーローの仲間になるのは物語の定説だ。
そんな展開に胸を躍らせながらアルフレッドは、ソ連、いや今は名もなき国へと急いだ。

けれどアルフレッドはこれから、どうしようもなく知ることになる。
現実は物語ではなく、ハッピーエンドでは終わらない事を。


「イヴァン?いないのかい」

イヴァンの家のカギは開いていた。
仕事で何度か来たことはあったが、その時は、リトアニアが迎えてくれた。
けれど今彼はここにはいない。巨大な家の中はシンと静まりかえって人の気配は全く無い。外ではちらちらと雪が降り始めているが、家の中で火が燃えている様子もなく冷え切っている。ブルリと震えた後、もう一度彼の名を叫ぼうとすると、奥からガタリと大きな音がした。

「そこにいるのかい?」

呼びかけに答える声は無く、たどり着いたのはアルフレッドが足を踏み入れたことのない、彼のプライベートルーム(おそらくは寝室)の扉だった。

「イヴァン?」

呼びかけると再び中からカタリと音がした。
返事を待たずに思いきって扉を開ける。

「イヴァン、どうしたんだい!?」

そこでは、ベットの横でうずくまるイヴァンがいた。普段から白い頬は、今は血の気はなく、青く染まっているように見えた。
それでも瞳だけはギラギラと輝きアルフレッドを睨みつける。

「なんで……来たの?僕を笑いに来たの?」

イヴァンは、話すのすら辛そうな様子だ。

「まさか!俺は君と仲良くなりにきたのさ!たしかに君は悪いことをたくさんした。けれどまぁ過去の事は水に流して、これからは共に」
「フフッ、アハッアハハハハハハハ」

アルフレッドがそこまで言ったところで、イヴァンは狂ったような笑い声をあげた。

「なにがおかしいんだい?」
「フフ、アルフレッドくん、教えてあげる。それを笑いにきたっていうんだよ」

おかしくてたまらないというようなにイヴァンはくすくすと笑い続ける。その様子にアルフレッドは、カッと頭に血が昇るのを感じた。

「せっかくわざわざ来てやったのに、なんだいその態度は!わかったよ、イヴァン。なら君はこれからも俺と敵対するんだね?」

イヴァンはその言葉にすっと笑うのを止め、氷のような瞳でアルフレッドを見つめた。

「な、何だよ」

戸惑うアルフレッドを無視し、イヴァンはふらふらと立ち上がり、廊下へと向かう。

「どこへ行くんだ、そんな体で」

やはりイヴァンは答えず、壁に体を預けながらそれでも一歩一歩進んで行く。アルフレッドはしかたなくそれについて行った。
最終的には玄関まで来てしまった。前を歩く男はこの広い家を歩いたせいか息も絶え絶えなありさまだ。

「おい、体調悪いんだろ。寝てなきゃだめじゃないか、君、風邪でも引いたのかい?」

そう言って肩を掴んだ途端、どこにそんな力があったのかというくらい強い力ではたき落とされた。

「痛っ、なにするんだい!?」

くすくすとわらいながら笑いながらイヴァンはアルフレッドを振り返った。そこに浮かんでいたのは、先ほどの狂った笑みではなく、今にも消えそうな儚げな表情だった。

「さっきの質問に答えてあげる。これからはもちろん君と仲良くするさ。……でもそれは僕じゃない。これから生まれる新しい国だ」
「新しい国?……君は、一体何を言ってるんだ?」

イヴァンの言っていることを理解できずアルフレッドが問いただそうとした途端、玄関の扉が大きく開かれた。

「……嘘だろ」

外は大変な吹雪だった。ゴウゴウとうなる風が世界を白く、白く染めている。

「俺が来た時は少ししか降ってなかったのに、急にどうして……」
「僕を迎えにきたんだ」

そう言うとイヴァンは躊躇うことなく吹雪の中に足を踏み入れた。

「ばか!死ぬぞ!」

腕を掴もうとしたとたん突風がふき、アルフレッドは家の中へとはじき飛ばされる。

「そう!僕は死ぬんだ。……君が殺したんだよ、アルフレッド君!!」

吹雪の中、あまりにもクリアに聞こえた彼の声に目眩がする。

「雪なんてずっと嫌いだった。寒くって、心まで凍りそうで。けど結局僕は最後は雪の中で死んで行くんだね。ねえ、僕はずっと君がうらやましかったよ、太陽に愛されてる君が。でも結局僕は君にはなれなかった。雪の世界から出ることはできなかったんだ」
「そんなのわからないだろ、イヴァン!」

もう彼の姿も見えぬほどの雪が降っていた。アルフレッドが外に出ようとしても、まるで意思をもったような風がそれを阻んだ。

「イヴァン!」

雪はその後、一際激しく降り、すぐに止んだ。しかし、そこにはイヴァンの姿はなく、いくら探し回っても彼の姿を見つけることはできなかった。


アルフレッドはその後最後に見たイヴァンの姿を何度も思い描くことになる。
イヴァンは泣いていた、まるで子どものように助けて助けてと泣いていたのだ。