stay
その言葉に嘘偽りはないのに、いつだって不安になる。
自分が今ここにいる事は、正しいのだろうか。
「また眉間に皺寄せてる。」
夢から覚めたように、現実世界へ引き戻される。声の主は穏やかな顔をして、ぼんやり窓の奥へ視線をやった。
こんなにいい天気なのに、と、目を細めた。
「俺の顔と天気は関係ないだろ。」
「勿体ないって話だよ。」
ソファに深く腰掛けた藤巻の側まで寄り、隣に座る。
触れてしまえるほど近くにあるぬくもりに狼狽しながら、藤巻は大山から視線をそらした。
手を伸ばせば届く距離にある。たった一瞬で、奪う事も、与える事も出来る。
それは一種の凶器であるとも言えよう。
「も、勿体ないってなんだよ。」
大山はというと、隣に座ったまま口を開きそうにないので、静寂に耐えきれず、藤巻が沈黙を破った。
「ん。こんなに天気がいいのに、なんでそんな難しい事考えてるのかなって。」
「…俺口に出してないよな?」
「見たら分かるよ。眉間にこう、皺を寄せてさ。そんなしかめっ面してたらお爺さんになっちゃうよ。」
大山は身ぶり手ぶりで、先ほどの藤巻の様子を表現した。
自分の真似をされるというのは、こんなにも恥ずかしいものなのか、と、藤巻は両手で顔を覆い、耳まで赤くなった。
「顔もさ、」
少し困ったような声色に、藤巻は涙目になりながらも顔を上げ、大山の方を見た。
「本当は優しいのに、目つき悪いせいで怖い人だと思われてる。勿体ないよ。こんなに優しいのに。」
丸まる藤巻の肩を、緩く優しく撫でる。
思わず、涙が出た。
「ばっ…、」
泣いているという事実が恥ずかしくて、肩に置かれた手を振り払ってしまった。
気付いた時には既に遅く、目を丸くした大山がこちらを見ていた。
そうしてまた悪態をつく。
「馬鹿かお前。め、目ぇおかしいんじゃねーのか?」
大山は、その言葉に怒りを覚えるでもなく、ただ黙って、笑顔を崩す事なく聞いていた。
思わず涙が出たのは。
唐突である言葉に胸が詰まったから。
その言葉を発したのが、誰でもない、大山だったから。
言葉の意味を理解した時、その瞬間にぬくもりがあったから。
大山だけが自分を理解してくれていると安堵したと同時に、存在出来る意味を教えられた気がした。
何が正義か何が悪か、何も分からない今の状況で、大山の言葉だけが、唯一信じられる。
何度言っても言い足りないほど、溢れる思いを伝えたいと思った。
何があっても、何があっても。側にいて欲しいと。
藤巻は、大山の肩に、そっと触れた。