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花が落ちた日

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花が落ちた日

彼に一度だけ、殺さないでくれ、と云ったことがある。彼が私に手を上げるようになってすぐの頃だ。
 私に向かって幾度も振り下ろされる掌には、躊躇いや手加減は一切感じられない。けれどその容赦なさとはうらはらに、そこには憎しみ苛立ちも含まれてはいないのだ。彼の暴力は、どこまでも無感情で無機質だ。
 その日も私は床に這い蹲りながら、更に追撃を加えようとする彼の足に取り縋ってもう止めてくれと懇願していた。腫れ上がった頬が邪魔してうまく開かない唇を必死で動かして何度も訴えた、殺さないで、と。
どうして殴るの。痛いのは嫌だ。殺さないで。君は私のことが嫌いなの。

「嫌だな、そんな事あるわけないじゃないですか」

 彼は畳に膝を折ると、血と涙と鼻水でみっともなく汚れた私の顔にそっと触れた。汚れる事も厭わない様子で細い指が慈しむように何度も頬を擦る。優しく鼻血を拭うこの手はさっき私を容赦なく打ち据えていたものと同じだ。私は予想外の優しい手つきと言葉に唖然とし、阿呆面で彼のされるがままになった。
 輪郭を辿って最後に顎に触れたあと、彼の手が私から離れる。指の腹にこびりついた血を確認するように一度掌に視線を落としてから、私の方を見て彼はこう云ったのだ。

「殺すならもっとちゃんとやりますよ」

作品名:花が落ちた日 作家名:町屋