知りたくないと思うことは聞かないのが主義だった。偶然というのは信じないと思っていたが、浜田と同じ高校に進学したのは紛れもなく偶然だった。あまつさえクラスも同じとは神様も悪戯が過ぎるが、そんなものは俺の意思にまったく関係がなかった。クラスに関心がないというより、余計な揉め事を起こさない程度に距離は置きたい。噂は広まりが早い。それでも、俺がその話を聞いたのは多分クラスでも最後の方だったのだろうと思う。気を使うということを知らない田島あたりが口を滑らせたのだ。言葉は甘い毒を有する。夜逃げしたんだって! 鋭い針が一瞬で俺の喉元を突き刺した。悪気がないことはそれだけで罪だ。俺はそんないい加減な匂いしかしない事実よりも美しくない真実が欲しい。教室で間抜け面晒して騒いでいる、奴の瞳の裏は一体何色だ?
「もっと器用に生きる方だと思ってたんだけど、」
「運命は生き方に含まれないんだよ、泉」
「何したの」
「金の絡んだ女はみんな母親みたいに優しいんだ笑っちゃうだろ?」
「・・・生きるって何」
「どろどろしててややこしくてぬるくなった牛乳みたいなものかな」
浜田は六畳一間に雑魚寝して笑う。奴を呼ぶのは薬缶の甲高い声色だけだ。
(泣けとは言わねえけど)(まずは愛せ)
闇を孕んだ子供は確かに産声を上げたと俺は輝きの褪せた両腕で思う。