二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

りとる えばー ちゃいるど!

INDEX|1ページ/1ページ|

 
ぎゃあぎゃあとやたら騒がしい声が、このお昼前最後の授業中である2Aにも響いて消える。下級生の冴えないジャージの中で、一際目立つ小豆色。あれが浜田良郎という男だった。ゴール目掛けて懸命に球を蹴る男が妙に微笑ましくて、その事実を伝えようと顔を上げたらすぐに梅原と目が合った。突然のことに困惑したように、梅原は笑った。俺が口をぱくぱくとさせて、は・ま・だ、と言うと、ああ、とようやく理解した梅原は、その位置からは見えない浜田の姿を想像したのだろう。梅原もやっぱり笑うのだった。



今でも何かと言って学年の違う俺たちのところに教材を借りに来る浜田。一応先輩なんだから気を使って欲しいところではある。和英や便覧は梅原、エクセルやクリアは俺のところにちゃっかり借りに来て昨年やっていたのと同じ問題の答えを尋ねてくる。
「なあ、土佐日記書いたのって紫式部だっけ?」
「紫は源氏だって何度言ったら覚えんだよボケ浜田。お前の脳みそきっと腐ってぐちゃぐちゃなんだろーなあ」
「土佐は紀貫之だ。俺だってわかるぞ」
珍しく苦手な古典を理解できた俺が得意気にそういうと、じゃあ漢字で書いてみろよ、と無駄な張り合い。自分が出来ないことをこうもいけしゃあしゃあと発言する浜田。きっと俺はこんな浜田が好きだった。



梅原は、俺が浜田を好きだという。
「いや、マジで。俺本気でお前浜田好きだと思ってたもん。お前からこんな言われるまでほんともー無理だと思ってた。つうか今でもお前俺より浜田優先じゃん」
「や、だから浜田へのフラグは過去形と言うか未遂と言うか、寧ろ母性愛みたいな? 今は誰よりもお前のこと好きだって言ってるだろ?」
「まあ、信じてやらないでもないけどな。俺としては浜田を好きなお前が好きって感じ」
「何だよそれ、浮気公認?」
「ちげえよ、友達認めてやれない奴なんて死んだ方がましだろ?」
ああ、本当に梅原って偉大。俺はそんなお前が心から好きだよ。あいらぶゆー。浜田は俺たちの子供みたいなもんなんだなーって自覚。お父さんとしてここは良郎くんに厳しくするべきかもな。子育てって難しい。うーん、エンドレスリピート、悩み!



ぎりぎり4時間目が始まろうとしていた、机で割りと穏やかな心持で数学のノートを開いていい子ぶって先生を待っている。でもその平静をぶち壊すのは永遠のチャイルド、浜田良郎で。体育でもないのに小豆ジャージをまとって、どう考えてももうこの時間では彼は次の授業に間に合わないだろう。必死の形相で俺をクラスの外に呼び出すと、ポケットから有り金全て出して俺に手を合わせた。
「何、これ」
「俺の全財産」
ちらっと俺を上目遣いで見上げて、そうして不器用にウインク。普通の男なら気持ち悪いと一蹴するか、面白いと言って笑いの種にするか。でも浜田はわかっている。つくづく俺という生き物を理解している。俺にとってはこれはなんとも可愛らしい子供の駄々に見えてしまう。ため息一つでもう一度何、と聞き返す。
「いやーそれがさ。昼に野球部の奴らに呼び出されちゃって俺今日昼購買で買おうと思ってたからどうしようかと思っちゃって、そこで梶原先輩の登場よ! 活躍に期待してるぜ。一番人気の焼きそばパンが食べたいの」
「梅原に頼めよ」
「だめだめ! 梅は体力ないから」
ぷ、と無意味なスイッチ音が入ってからすぐに無機質なチャイムが鳴り響いた。やべっと明らかに顔色を変えた浜田が、頼むとだけ言って校舎を北から南へ走り去ってゆく。残されたわずかばかりの金をくすめるような度胸があるわけもなく、でも俺は精一杯の反逆のつもりで昼の購買に梅原も誘った。面倒くさがっている振りの梅原。やっぱり俺たち浜田に甘いし浜田好きだよ。
(俺たちとして責任を梅原にも転嫁したい)