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Welcime home!

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がたん、と外側から窓が開かれる。
「雲雀さん」
残務処理の終わった深夜の執務室に、侵入者。







「お帰りなさい。任務お疲れさまです」
この人は何故か、昔から窓から入ってくるのが得意だ。
くるりと椅子ごと振り返ると、その人は窓枠から音もなく床に降り立ち、秀麗な眉を顰めて俺を見下ろしてくる。
「どうしたんですか雲雀さん、交渉相手はそんなに咬み殺し甲斐がなかったんですか?」
首を傾げると、ますます眉が顰められる。
無言で、首を横に振られた。
「じゃあ、何か不手際でもあったんですか?」
その問いにも、答えは無言でのNoサイン。
「ですよねぇ、雲雀さんに限ってそんなこと」
この人の仕事の完璧さは、俺だって良く知っている。
では一体何が、このひとの機嫌を損ねてしまっているのだろう。
「ひばりさん?」
「───」
ふるり、と首が横に振られて、違う、という意思表示をされる。



頭の悪い俺は、そこで漸く気が付いた。
照明の光をちかりと弾いた、左耳のピアス。
「…恭弥さん」
名前で呼んで、両手を伸ばす。



顰められていた眉が、緩んだ。
「───やっと解ったの」
「ごめんなさい、俺ばかだから」
「まあ、綱吉のそれは今に始まった事じゃないけど」
「うわあ、傷つくなぁ」
くすくす笑って、引き寄せられる腕の強さに身を委ねる。




今夜は硝煙の匂いも返り血の匂いもない。
俺が好きだと言ったコロンの匂いと、この人が持つ肌の匂いだけ。
だいすきな匂い。
「お帰りなさい、恭弥さん」
「ただいま」
ぽすん、と抱き留められて、広い背中をそっと撫でる。
「お疲れさまでした」
「うん、群れの相手は疲れたよ」
「すみません、でも恭弥さんにしか頼めないお仕事だったから」
「だろうね。あんなの、綱吉なんかに任せられない」
くい、と頤を持ち上げられて、黒い切れ長の瞳に見つめられる。
ぬばたまの色、夜空の色、烏の濡れ羽色、黒曜石の色。
黒を表現するどれをとっても、この人の瞳の美しさには敵わない。
「…あんな場所に綱吉を連れて行ったら、減る」
「やだなぁ、減ったりしませんって」
「減るんだよ」
至近距離、唇も触れる寸前の距離で囁かれて、鼓動が跳ねる。
「綱吉は、僕のだろう?」
すう、と薄い唇が弧を描く。
「だから、『沢田綱吉』はボンゴレのものでも、『綱吉』は誰にもあげない」
綱吉は、僕のものだ。
もう一度囁かれて、口づけが降ってくる。
軽く重ねられるだけの、軽いそれ。





なんてあまい束縛。
「…はい」
居場所を決められる、居場所であって欲しいと求められる幸福。
「俺は、恭弥さんのものです」
長く伸ばした俺の髪を梳きながら、満足そうにわらうひと。



「───おかえりなさい、恭弥さん」
もう一度囁いて、思いっきり抱きついた。
そうすれば苦しいくらいの力で抱きしめ返してくれることを、知っているから。




作品名:Welcime home! 作家名:新澤やひろ