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カスタード・プティングにまつわる君と僕の話。

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卵を入れよう。
お砂糖を入れよう。
グラニュー糖を混ぜよう、牛乳を馬鹿みたいに入れて。
ただひたすらに甘くしよう。

甘く、甘く。





調理実習の班分けは、公正を期してくじ引きで行われた。 3という数字な時点で微妙な気はしていたのだ。案の定ぱっとしない面子ばかりが揃い、最後にそれに仁王が加わった。クラスにテニス部員は俺と仁王しかいないはずなのに、中々な確立で俺は仁王と組むことが多い。またか、とお互い声に出さずとも表情が語っていた。くじは学級委員長が回収に回ったが、仁王が3は微妙だと零しているのを聞いて、俺はなんとなく嬉しくなった。
「お前、エプロン何色?」
「赤じゃ」
仁王のいいところは俺の子供染みた下らない話にも無理せず付き合ってくれるところだ。仁王が赤と答えたのに、俺も、と返す。仁王に赤は少し自己主張が強すぎる気もしたのだが、仁王は不思議とどの色も纏ってしまえば似合うのでこれはこれでありなのだろうと思う。
「仁王は何色でも似合うからなあ」
俺のふとした一言に、仁王は顔を渋くして、お世辞はいらんよ、と呟いた。
「着れるのと似合うのは違うからのう」
お世辞だなんてとてもそんなつもりはなかったのだが、なんだか仁王が寂しい顔をしてそれっきり黙ってしまったので、俺は喧騒の中1人遠くを眺めているしかなかった。


*** *** *** *** *** ***

部活帰りにスーパーに行くのは本当に趣味みたいなものだった。閉店ギリギリのスーパーにふらっと入って、安くなった品物を、必要なものだけ購入する。今週の日曜日は下の弟の誕生日だった。俺は小さな弟たちにプリンを作るようにせがまれていた。単純に弟が喜ぶ顔を見るのは好きだ。とっておきの甘いカスタードプリンを作ってやろうと俺は今から張り切っていた。
(たまご、たまご・・・、あ、仁王?)
棚の角にすらりとした立ち姿の仁王が俯き加減に立っていた。仁王はレトルトのカレーを手にとって眺めていたが、すぐに興味が無くなったようで、棚に戻していた。
「仁王!」
俺が嬉々として声を掛けると、ほんの少し驚いたように瞳を開き、すぐに微笑んで片手を上げた。
「買い物中か、ブン太は」
「仁王こそ。スーパーなんて珍しいんじゃねえの?」
正直、このスーパーで仁王に会うのは初めてだった。学校からは自転車で10分ほどの距離なので、会わないことも無いのだろうが、中学生が寄るような建物はここのスーパーじゃなくても帰り道にごろごろしていた。それに仁王にはあまり寄り道をするイメージがなかったので、寧ろそこが不思議に思えた。部活が終わるといつも飄々と消えているので何をしているのか柳生ですら知らないときの方が多いくらいだ。
「ブン太の顔が見たかっただけじゃあ・・・なんて言ったら喜んでもらえるんじゃろうか?」
言っておいて仁王がけらけら笑うものだから、そういうつもりが無くても馬鹿にされているようで嫌だった。何にせよ仁王が理由を話す気が無いのは明白だったので早々に俺は話題を切り上げた。仁王が俺のかごの中身を繁々と眺める。
「夕飯・・・にしちゃあちと甘すぎじゃのう」
「これはプリンの材料。日曜日弟誕生日なんだ」
「ぷりっ」
仁王が納得したような表情を見せる。
「ブン太は本当に良いお兄ちゃんじゃのう」
「・・・? 別にこんなん当たり前だろぃ?」
俺は仁王が不意に褒めたりするので照れ隠しにやたらと頭を掻いてみた。仁王がそれを制止して俺の顔を見つめた。
「何だよ、にお」
「お兄ちゃんだって1人の人間・・・違うか?」
俺がきょとんとしていると、気がつかないならいいと仁王はすぐに離れていった。離れていってから、驚くくらいに仁王との距離が詰まっていたことに自分でもドキドキした。仁王に胸がときめいていたのだ。
「ほれ、卵。いいプリンが出来るといいの」
仁王はしっかりとプリンのレシピを知っていた。仁王のそういった意外性に、俺は調理実習も案外これは安泰なのかもしれないと考えた。先程の仁王の発言の、真意が知りたいと思ったのは、家に着いてからだ。


*** *** *** *** *** ***

兄弟喧嘩をした。調理実習で着ようと思っていた赤いチェックのエプロンを、弟が汚してしまったのだ。今だからこそあの時は大人気なく怒ってしまったと反省したが、そのことよりも。
(仁王とおそろいじゃなくなるのが、)(残念なんだな・・・)
調理室に全員が入った後に、持ち物の点検をされて、ようやく全員が身なりを整えることとなった。俺が頭から被ったエプロンの色が鮮やかな橙なことに対して、すぐに仁王は疑問符を浮かべた。
「・・・随分とまた派手な蜜柑色じゃのう」
背で紐を結ぶことに手こずっていた俺を、仁王は軽く手伝ってくれた。ありがとう、と素直に礼を述べると、少しだけ照れくさそうに仁王はおう、と答えた。仁王が目を細める表情は猫に似ている、と前に誰かが言っていたが、本当にその通りだと、俺は今更に気がついた。


*** *** *** *** *** ***

部活が終わるのと同時に、どちらともなく一緒に帰る準備をしていた。俺が駐輪場に向かうと、仁王も鍵を取り出してくるくる指で回しているものだから、てっきり自転車なのかと思い聞いてみると、
「これはロッカーの鍵じゃあ」
自転車は登下校で使用したことが無いときっぱり言われた。自転車に乗れないわけではないと釘を刺され、俺たちはふっと笑いあった。特に行くあてがあるわけでもなく、2人で自転車に乗ってひたすら学校からの坂を下った。沈みかけた夕日ですら眩しいと仁王が言うので、普段とは違う道を曲がる。調理実習は思いの他上手くいった。仁王が手際よく野菜を切るものだから、班員の誰もが驚いていたのだが、後で柳生に仁王は鍵っ子だと聞いて納得した。
「もうすぐじゃの、弟さんの」
俺の肩につかまって上手い具合にバランスを取る仁王が、普段より少し声を張り上げてそう言った。向かい風が容赦なく俺たちに吹き付けるので仁王の声はすぐに後ろに流れてしまうのだ。
「何かプレゼントできたらいいんじゃがのう」
「いいって、別に。そんな気ぃ使うなよ」
背で仁王が真剣にそう言っているのが伝わって、俺は思わず苦笑してしまった。仁王のそういう誰にでもな優しさが俺は心地いいのだと思う。
「お兄ちゃんも疲れるの」
仁王は明らかに俺に気を使っていた。長年兄として過ごしてきた俺にはすぐにわかる。素直に有難いと思う反面、情けないと思う部分もあって。
「俺にも仁王みたいな兄貴がいたらよかったのに」
暫く返事はなかった。ただ、一言、兄貴ね。それだけ返され俺たちはその後無言になった。


*** *** *** *** *** ***

久々に作ったプリンはちょっと形が歪んでへこんだ。午後になって、丁度完成した頃に見計らったかのように仁王が現れて、手には小さなお菓子の詰め合わせがあった。下の弟の分だけではなくて、上の弟の分も用意されていて、俺はいつ仁王に弟が2人だと話したか不思議で仕方なかった。
「兄ちゃんのプリンだ!」