二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

not KING

INDEX|1ページ/1ページ|

 
何か遠いものだけが、今もここにおいでと呼びかける。



誰にだって、そう、俺にだって他人に知られたくないと思うことなら山ほどあって、光也に俺のことを何も知らないと言われて、それはもう、不思議なほどに、安堵した。

何も考えずに家を飛び出して、あのときむかついていたのは、祖父の、あの瞳だった。今思えばあの瞳がどれほど俺を愛していたかをはっきり自覚できるのだが、そのときの俺にはそんなことだって理解するには程遠いほど荒んでいて、駄目だった。

そうかねえもう俺わかったよ俺もうどこにもいられない、さよならさよなら
気持ちが安定したら、自分が食べていくのに精一杯な現実に気付いて、そのあとは悲しみも怖さも感じなくなった。あのとき雁字搦めに感じていた憤りさえ。何もかもがどうでもよくなって、でもそういう気持ちは忘れてはいけない気持ちだから、とその当時はじめたばかりの運転職業のついでに紹介された店で俺は自嘲気味に肩を広げた。
「お兄さん、どんな模様で?」
店主のほっそい狐目に奇妙な親しみを覚えながら、俺は昔祖父のうちで見た錦織を思い出していた。
「素敵な模様で頼むよ、俺の肌つみを隠すくらいのを、さ」
慶、と呼ばれた気がして振り向いたものの、それが祖父の声だったのか、光也の声だったのか、俺は自信がなかった。

「慶の髪の毛って、まるでライオンのたてがみみたいだな!」
光也がそうおかしなことをいうものだから、女給が面白がってらいおん? と聞き返した。俺はそれに海を渡った遠い国に住む、世界一強い肉食動物だよ、と教えてやった。
「だんなはそんなんじゃありませんよ、だって、だんなは、たぶんきっと、世界一弱いもの…」
ああ、そうだね。光也はどうして俺が世界一弱いのかなんてわからないのだろうわからなくていい。出来れば俺は光也の中で絶対の強者としてありたかった。
「でもたてがみに似てるんだもんよー、」
「…そう思っててくれるうちが華だよ」
一体いくつまでそう言ってくれるかね、と俺が冗談を飛ばせば、えー、と言って光也は柔らかい笑顔を俺にくれた。

この笑みを、忘れてはいけない。
作品名:not KING 作家名:しょうこ