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夜盲症

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俺は既に盲目的に人を愛することを覚えてしまった。



怖い予感はしていた。カフエーのお女給が、誰も居ないはずの部屋にぽうと壱点紅く灯が燈っているなどと抜かすものだから、初めは笑い飛ばしていたのだが、その灯が消えないと騒ぎ出したものだから、なんとはなしにそれは光也の燈す灯なのだろうと勝手に考えていた。光也は暗がりで蛍のような淡い光を眺めているのが好きな子だった。

けえ、けえこっちだよ、こっち
光也はその愛くるしい瞳で、いつでも舌足らずに俺の名を呼んだ。その呼び加減がなんとも云えず好きなものだから、俺が暫く返事を躊躇っていると、いつも光也は怒った風に駆け寄ってきて俺に抱きついた。
「俺が様子を見てきてやるから、大人しくしているんだよ」
お女給はただただ黙って首を縦に振った。その頭を軽く撫でてやると照れた顔を浮かべ、それから困ったように俺を見上げた。俺はああ、いけない、と思ってそのまま大股で階段を登った。

「光也?」
暗い部屋に居たのは確かに光也だった。しかし、その指先にかかるものを見て俺は凍った。光也の細く美しい指が、火種の灰に、犯されてゆく。
「光也!」
俺は殴りかかるような勢いで光也を取り押さえた。すぐに光也から煙草を取り上げて、その火種で横のカンテラに灯を燈した。すぐに部屋は温か味のある光で包まれる。俺に取り押さえられたままの光也は、悪びれた風もなく、まるで菩薩のように微笑んだ。けえ、と麻痺した頭で俺の名を呼ぶ光也は弦が切れてしまったのにまだ無理をして弾いているエチユードのようで潰してしまいたくなった。
「光也、どうしてこんなことを、」
「慶にね、なりたかったんだ」
その瞬間、何かが割れた音がした。女給が皿を落とした音だったような気もするし、自分の理性が切れた音だったような気がした。ともかく、俺はもうあの可愛らしいお女給のところには戻れないだろうということだけを理解した。光也の白い肌を貪るように吸い付いた。くすぐったいよお、と光也がさも可笑しげに哂う。

「どうして、もっと早くに俺を求めないんだ、もっと早くに・・・!」
作品名:夜盲症 作家名:しょうこ