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楽園

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ああ、酷いな。と。もう耳鳴りみたいな音すら聞こえないなんて、
(貴方の声を)
(こんなに心地よいと思ったのは、)
(多分最初で最後、)






あんまりですね、そんな風に泣かれるとは思ってもいませんでしたよ。骸は立っていた。言うなればその微笑みはもっとも美しく、残酷だ。
「これは夢だと…、」
「肯定してくださって構いませんよ、これは貴方の夢ですから、」
「俺の?」
「ええ」
じゃあ、骸にも触れられるの? 綱吉の純粋な疑問に骸はすぐに答えた。長く細い指が綱吉の柔らかな頬に触れる。
「涙を拭いてください。貴方の頬を濡らしてしまったなんて我慢が出来ない」
適度に心地よい骸の温度に、俺は端から融けていった。








朝、いつもと同じように遅れて目覚めて、ひっかけた靴に転がりながらパンを咥える。慌しく家を飛び出す。視界の隅にちらりと見えた獄寺君が、大して早くもないくせに往生際悪く走っている俺に足並みを揃えて追いつく。朝らしくとても爽やかに笑顔を向けた獄寺君の顔がすぐに凍って、劈くような声を聞く。
「十代目!」
すぐに困ったように獄寺君はハンカチーフを差し出す。折り目正しい黒の上物だ。
「どうしたんスカ、何かあったなら俺に言って下さい!」
え、と開いた口に数滴の塩っぽさが広がる。気付いてからも止まらなかった。俺は、泣いていたのだ。
「どうして…どうしてだろうね、」
今こうして俺は極々当たり前の日常を送っているはずなのに、すでにこれがありえないことだと。(ああ、今までの全ての経験たちが、必死でサイレンを鳴らす…)生きていれば、こんな日もまた訪れるだろうか。今は、夢でもいい。例え、例えばこんな日にこそ。
「逢えてよかった、獄寺君」
こぽこぽこぽ。すぐに心地よい気泡に意識はかき消された。









「貴方は酷い人だね、本当に」
握り締めたハンカチーフは本物だ。広げなくてもわかる、彼独特の苦い香りが微かにした。
「…そういうところがお好きなくせに…、素直じゃないんですね…」
ふん、と彼は花と無邪気に戯れる。鼻を突くように噎せ返る甘香。気にすればするほど先程までの彼の匂いはかき消される。(また。もうこれでどちらが夢かわからなくなってしまった…)
「ここはやはり貴方の夢、「夢は常に誰かのモノです。今のは間違いなく君の夢だ」
「俺の…?」
そんなの、一体誰が信じられる? 最後には貴方のように全てが消えていってしまうというのに? 酷いのはどっちだ。
「…もう少し、見てみては如何ですか」
気に入らない、と。口元が微かにそう動いた。何、と問いかける間に骸の腕がすらりと伸びて俺の視界を360度、奪った。









「本当はこうなることを望んでいたのでしょう?」
酷く悪趣味だ、と感じの悪いデジャヴを覚える。そんな、と否定しようとしてすぐにあの細い指にふさがれた。がたん、と当たり前に机が音を立てる。黒い学ランから深く見え隠れする緑に、(ああ、これを人は懐かしいというんだ)君はすぐに泣き出すんだね。ここでもまた涙を流す俺を。「興ざめだ、」まもなく骸の白い手は何の躊躇もなく開放を実行した。ほんの少し、名残惜しく感じる。落ち着くと回りを見回す余裕が出る。顔を上げて初めて世界が広がった。この教室には見覚えがある、先程骸が動かした机には確かに沢田、と名が記されていた。何故。
「ここ、なんですか」
自分が思っていた以上に搾り出すみたいな声で、怯えている。たったひとつの事実ですら今気付く。
「そんなの、君が私に初めて好きだと言った場所だからに決まっているでしょう」
ここが大切なのは貴方だけではないんです。また骸は機嫌を損ねたのか、ふいとそっぽを向いた。
「これは、貴方の夢ですか、」
「そうですね…これは二人の夢ですよ」
クフフ。申し訳程度に伸ばした指に、骸はしっかり反応した。いつだってそうだった。俺の欲しいものは、全部。
「購買にでも行きましょうか。綱吉君の好きな焼きソバパンを買いましょう」
骸はしっかりと俺の手を握って。体温は、やはり思いのほか冷たい。じわり、と花の香りがして視界を奪ってゆく。嫌だ、嫌だ。必死に抵抗しても無駄、こぽこぽこぽ。初めてこの音は彼の音だと(道理で心地が良いはずだ、)悟った。









「思い出して頂けましたか?」
本当にこれで最後なんですよ、ボンゴレ。
「そんな呼び方を…しないで下さい」
最後といいつつ貴方は今もしっかり俺の手を握っているのに。どうして、どうして貴方なんだ。ひとつ、ふたつ。花たちが骸の体を引き千切る。
「私は貴方を「そんな言葉嫌いです」
遮られた己の言葉に骸はすっと形の良い眉を寄せる。はっとしたように微笑んで、骸は俺を抱き寄せた。
「最後に、本当にとっておきを見せてあげましょう」
「…骸、」
ああ、やっと名前を呼んでくださいましたね。まるでビスケットについているおまけみたいな言い方をする。本当はそれを何より望んでいたくせに。(素直じゃないのはどっちだよ、)悪態すらもう彼には届かない。








綱吉くん、と緩慢な低音が俺の名を呼ぶので仕方なく体を起こす。誰だろう、覚えの無い声だ。右の手のひらが汗ばんでいる気がして目をやると、しっかりとおおきい手のひらが包んでいた。(知っている、この手を。離してはいけないと、)…はい。寝起きで掠れる声がなんだか異様に恥ずかしくて、俯く。嫌ですね、顔を上げてください。ゆっくりと上げた顔の、ピントが所在なげに定まってゆく。ああ、貴方は本当に酷い人だ。
「やっぱり泣き虫ですね、君は、」
言いかけた言葉を拒んだのは俺。そんな言葉より、もっともっと強く、俺の手を握って欲しいんだ。次の世で廻り逢うときはけっして離してはいけませんよ。答えを言う前にやはりあの気泡が全てを消し去る。





(愛しているは、)(次までにとっておきます)












この世界が終わったら、
楽園に逢いにゆく




それまで貴方が待っていると(貴方を待っていると。)
作品名:楽園 作家名:しょうこ