Please call
豪炎寺の声色には明らかに他人を揶揄する響きが込められていて、俺はあまりのことに羞恥で真っ赤に顔を染めた。視線を逸らした俺の顔を、それこそ無邪気な子供の振りをして豪炎寺は覗き込む。
「何がしたかったんだってば?」
「別に…何も、」
「素直に言えよ、言ったらやってやらないこともないぜ」
ふっと意地悪げに微笑んだ豪炎寺が、無理やりに俺の顎を掴み、ぐっと引きよせた。豪炎寺の形の良い唇が、俺の肌にそっと触れる。柔らかい吐息が甘く俺を刺激した。唾液をたっぷりと含んだ唇が、ちゅ、と音をたてて俺の顎を濡らす度に、そこじゃない、と体が過敏に反応する。思わず小さな喘ぎ声とともに身を捩じらせると、豪炎寺は眉を寄せた。
「お前がいけないだぜ、出来もしない癖に俺の前でアホ面晒して口なんか開けてるんだから」
「そんなつもりは!」
開きかけた口を右の手で覆って塞がれた。噛みつかれるかと思うくらいの鋭い速さで唇は俺の頬を痺れ上がらせる。塞いでいた右手が、そっとそれを止めて、新たに人差し指が俺の唇をゆっくり、左から右へとなぞった。困ったように俺が小首を傾げると、すぐにそれは元に戻された。豪炎寺が苦笑する。
「ほら、開けろよ、さっきみたいに、口」
人差し指が乱暴に唇を突いたので抗議しようと口を開いたが、思いが音になるよりも豪炎寺が唇を重ねる方が早かった。無理やりに下を捻じ込まれてあまりの苦しさに生理的に涙が浮かぶ。
「ごうえ、ん」
一瞬離れた豪炎寺を睨みつけると、豪炎寺は傷ついた顔をして自嘲気味に微笑んだ。その笑みに俺ははっとして心を奪われてしまう。これだからこの男は。
「早く、酷いって言えよ」
それでしかこの行為を正当化出来ない己の愚かさをお互いに理解している。だから俺はそんな言葉は死んだって言ってやらないのだ。
「…もっと」
簡単なことだ。傷つく方法ならいくらでも知っている。
作品名:Please call 作家名:しょうこ