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Your sweet smell

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豪炎寺に教科書を借りることになるとは正直思いもしなかった。忘れ物をすること自体が珍しい俺が豪炎寺を選んだ理由は、ただ顔馴染だと言うことと、円堂より教科書がまだ新しいだろうと言うそれだけの理由だった。本来、豪炎寺は避けたいところだが、円堂も教科書を忘れている事実が否めない中、面倒は一つでも減らしたかった。
てっきり、雷門に編入した時に教科書は全て買い直しているのだろうと思ったが、何冊かはそのまま同じものを使用しているらしい。少し意外だった。他の誰よりも綺麗に使われているが、ところどころに落書きがしてあるので、豪炎寺もそういうことをするのだと思うと少し笑えた。
教科書を借りたものの、授業自体はいたってつまらない数式との戦いだ。すぐに眠気が意識を奪う。少しだけ気を緩めるつもりで、教科書に顔を埋めたら、かすかに豪炎寺の匂いがしたのではっとした。持ち物にすら残る、本人の気配。豪炎寺はいつも香水でもつけていたのだろうか。彼独特の甘い匂いがする。しかし、それは結局俺を何故だか安心させた。気にすることなく俺はそのまま寝て一時間を過ごしてしまった。
豪炎寺が、俺を抱きしめている、そんな錯覚の中で。

廊下で手を振ると、席でぼうとしていた豪炎寺が笑顔でこちらに向かってきた。俺はすぐに豪炎寺に教科書を手渡す。
「悪かったな、いきなり借りて」
「別に…」
教科書を手にした豪炎寺がふっと教科書に顔を近づけた。俺はその所作に一瞬どきっとする。
「どうした?」
「いや…これ、お前の匂いがする。たった一時間お前が持っていただけなのにな」
かっと顔が熱くなるのを感じた。何故自分がこんなに恥ずかしいと感じているのか、俺にはわからない。豪炎寺が心配そうに顔を覗き込む。
「何か変なこと言ったか、俺?」
豪炎寺が俺の髪に触れようと手を伸ばした。思わず一歩退いて、俺はありがとう、と叫びながら廊下を逃げた。
おい、と後ろで豪炎寺が呼び止める声だけが聞こえる。
(何でこんなにときめいてるんだ、俺)(豪炎寺だからか?)(そうなのか?)
豪炎寺の甘い匂いだけが、まだ俺の記憶の中で静かに淀んでいる。
作品名:Your sweet smell 作家名:しょうこ