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カカオ100%はいらない 3 (銀魂/銀土)

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「やっと行ったか……」
 お登勢が階下にある彼女の店に消えたのを待って、銀時が声に疲れの色を滲ませ呟く。土方も口を閉じてはいるが、疲れたような顔をしている。
――鬼の副長もババアには敵わねぇか。
 あの場合は互いにああするしかなかったにしろ、あの土方が頭を下げる所を見る機会なんてそうそうあったもんじゃない。特に自分の前ではどんなに土方に非があるにしても頑なまでに張り合おうとする。土方がそんな調子だから自分もそれに対抗してしまうのだ。冷静に考えてみれば子供の喧嘩並みのレベルだったが、どうにもそれが楽しくてやめられない。
(どうしようもねぇな、俺も)
 口には出さず、苦笑して黙ったまま煙草を吸い続ける土方の方に向き直る。
「……で? さっきのアレは何だったわけ?」
「言っただろ。てめぇの中に聞けってな」
「いや、何にも心当たりないんだけど?」
「そりゃ随分とお目出度い頭だ。目出度過ぎて腐ってんじゃねぇか?」
「んなこと言ってもよォ……」
 ないものはないのだ。
 ここ数日だって仕事がないのは相変わらずだったし、今日のことがあったからいつものようにラブコールと称して電話をかけるのは土方の期限を損ないかねないと思ってしなかった。今日に至っては土方が来るのを今か今かと待っていただけである。バレンタインの約束ということもあって、土方から貰えるかもしれないという限りなく0に近いくらいの淡い期待から多少浮かれていたかもしれないが、それでも特別何かあったわけではなかった。
「まぁ、尤もてめぇがどこで何してようが、てめぇとの関係もこれまでだし、俺にはもう関係ねぇがな」
 吸っていた煙草を携帯灰皿に押しつけて立ち上がった土方を銀時は見上げる。え、と聞き返そうと思ったが、土方の纏う雰囲気が冗談ではないことを悟って、そのまま帰らせまいと土方の片腕を掴んだ。
「何ソレ、どういう意味?」
 土方の真意がわからない。土方がなんでそんなことを言うのかわからない。一体何がどうしてこうなってしまったのか、そもそも根本的なところが不可視で曖昧だ。
「…………放せ」
「嫌だね。放せばおめーは何も言わずここを出て行くだろーが」
「当たり前だ。それの何が悪い」
「そりゃ理不尽ってもんだろ? こっちは何がどうしてそうなってるのかさえ分からねぇんだぜ? 理由聞く権利は十分あると思うんだがな」
「理由も何もねぇよ。てめぇにはほとほと愛想が尽きたっつってんだ」
「おめーさぁ、愛想が尽きたっつーならもっとそれらしい顔しろよ。今お前がどんな顔してるかわかってる?」
 ひどい顔だ。どんな控え目に見てもひどい顔だ。
 その表情を一言で言い表すのは難しいが、敢えて言うなら、怒りと痛みと辛さがない交ぜになった、といったところだろう。それに加えて、泣きそうにも見えた。
 そんな土方をそのまま行かすだなんて自分にはできない。まして、自分と土方との関係を『終わりにする』だなんて言われれば余計行かせる訳にいかなかった。
「とにかく理由を聞かせろよ。俺が納得できるだけの理由をな」
「理由も何もねぇって言っただろ。てめぇの昼間の行動見りゃ当然の結果だと思うがな」
(昼間?)
 何のことだ、と口を吐いて出そうになった言葉を飲み込んで今日一日の行動を銀時は振り返る。
 朝はいつも通り万事屋に来た新八に起こされて起床。食事当番の神楽のたまごかけご飯を食べて、そのまま相変わらず依頼の来ない電話を待ちながら朝のワイドショーを見て過ごすのはここ毎日の週間だ。依頼が来ない電話に腹を立てて怒りのあまり木刀を振ったら、それが電話線に偶然当たって切れてしまい(電話が鳴りかけていたのはきっと空耳だろう)、何故か新八に怒られ、ドラマのいいシーンだったのが煩くて聞こえなかったという神楽の飛び蹴りを食らった。昼御飯を三人で適当に食べた後、どうせ仕事も来ないという理由で新八を帰そうとしたら、朝から自分がニヤニヤしててキショイから今日は志村家に泊まると神楽が言い出して新八と一緒に出掛けてしまった。一人になって買物がてら外に出て久しぶりに月詠に偶然再会して適当に話して、夕方に戻ってきて土方が来るまでまたダラダラ過ごして。
 どう考えても何かあったとは思えない。むしろいつも通りだったような気がする。土方の怒りを買うような何かなんてどこにも潜んでいない筈だ――そう思いかけて、アレ、と銀時はそこで思い止まる。
(……なるほど、そういうこと)
土方の言うそれが何なのか、自分の周りでは割と当たり前過ぎて気付かなかったが、その何気無い日常にそれは潜んでいたのである。
「……嫉妬した?」
「…………っ!」
 銀時の言葉に土方の顔が一気に高潮する。声を詰まらせたのは図星なのだろう。その顔を見て、銀時は一目瞭然だと思いながら込み上げる笑いを堪えた。
「なんつーか、ただの勘違いだからアレ」
 昼間、土方は自分が月詠と会っているのを偶然見かけたのだろう。あの時近くに気配はしなかったから、会話は聞こえないくらいの位置で。だが、声は聞こえなくとも、それを見たというだけで十分だろう。あとは想像があればこと足りる。
 職業柄なのか、土方は出揃っている情報を頼りにあれこれと推測立ててしまう癖がある。いつもは大体その推測も裏付け確認をするのだが、こと今回に至っては思い込みに走ってしまったようだ。混乱してたのだろう。仕方のないことだと思いつつも、嫉妬心を抱いてくれたという事実があるだけで嬉しかった。
「紛らわしいんだよ、てめーは」
「でも俺嬉しいんだぜ? お前が嫉妬してくれるくらい俺のこと好きなんだ、ってな」
「冗談も休み休み言いやがれ」
 そう言って土方は銀時の手を振り解いて、ついっと顔を背けてしまった。チラリと見えた片耳が赤く染まっているところを見る限りでは恐らく照れ隠しなのだろう。突っ込んでみようかと思ったが、それでまた機嫌でも損ねられたらたまったもんじゃないと思い直して、知らぬフリを決め込む。
「まあ俺も悪かったってことでさ、お詫びもかねてヤろうぜ」
「…………それは詫びなのか?」
「細けぇ事はどうでもいいだろ。折角のバレンタインなんだしよ」
「てめぇが盛ってんのはいつものことだろーが」
 毒づくように土方は言ったが、それほど嫌がっている訳ではないのを銀時は知っていた。その証拠に土方の顔は少しだけ揺るんでいるし、声音もどこか柔らかい。
 そんな土方を前にすると自分の中のどこかが温かくなる気がするのだ。
「やっぱバレンタインはミルクチョコが一番かねぇ」
 そう呟きながら、窓の外に見えた夜空を見る。寒空に浮かぶ星が煌々と輝いて見えた。