赤い傘
「あの赤い傘が如何したって?」「ああ、仁か・・・」
俺は口に出していたことを特になんとも思わず、傍に寄ってきていた仁に気付かなかったことの方を寧ろ驚いた。
「いやあ、だって、如何したって彼女に赤は、」
「アレは貰い物なんだ。貢がれたって奴」
百合子のふんわりと靡く髪、そしてそれに隠れた赤い頬、赤い、傘。
思わず遠い目をして彼女のあの顔を思い出してしまう。きっとこの前の初恋の君から貰ったものなのだろう。誰か、大切な人から貰ったものを、大切に使えるのって、凄く素敵だ。
「お前、アレが欲しいのか」「いや、そんなことは、」
俺は、ヴァイオリンを思い浮かべた。じいちゃんが譲ってくれた、年季の入った代物を。ヴァイオリンの音色は、何時だって俺を優しくしてくれた。
「おし、ビショップのピアノを聞こう」「何故お前が弾かない」「俺には無理だよ」
苦笑して飛び出した矢先に、ビショップに出会う。それは、久々に晴れた日のことであった。