夜遊びしませう?
(仁は、本気なんだ)
仁の瞳は、まごうことなき真実の瞳をしていた。彼は、きっと俺を手に入れるつもりなのだ。俺の唇が微かに動いた。しかし、俺が何かを云う前に仁はとっとと俺の口を塞いでしまった。
「仁、」「五月蠅い」
俺の唇に、吸い付きながら、彼は俺を見下した。ああ、そんな目で見るなよ。自己嫌悪だ。俺は本当は仁に抱かれたいと思っている。なのに、如何しても慶光の影がちらつくのだ。結局お前の瞳に写っているのは、俺と慶光と、一体どっちなんだよ? 心が、体のいい代用品にはされたくない、と叫んでいる。
こあい、と俺は蚊の鳴くような声で云った。仁が唇から離れて、怖い? と聞き返す。目を一回瞬かせれば、出てきたのは紛れもない涙で。(こんなにも仁の境界線が曖昧だったのはこいつの所為だったのか)
「なんだ、泣いているのか」
仁はそれが何でもないことのように、そっと人差し指で俺の涙を拭った。ほら、見て御覧、お前の涙だ。綺麗だろう? やや挑発的に微笑んだ彼は、そのまま俺をぎゅうと抱きしめた。その抱擁は、痛かった。棘のように、痛かった。俺もあまりの強さに思わず抱き返してしまう。仁が、耳元で囁いた。
「本当は、こんな風に乱暴に抱きたくなど、なかった」
それは明らかに後悔と取れた。
俺はただただもうひたすらに仁が憐れで、先ほどの気持ちなど微塵も消えていた。仁、仁、と名前を呼んで、顔を合わせたら、俺から口付けを落としていた。仁の瞳孔が、一瞬、大きく見開かれ、次の瞬間には光悦に変わっていた。
「光也、お前」
嗚呼、彼は、俺を光也と認識しているのだ。もう、それだけで構わないと思った。今度生まれ落ちる涙は本物だと思う。歓喜の、涙。
「もう、抱きたいなら抱けばいい!」
俺は、小さな叫びのようにそう宣言した。愛している、という言葉はまだ取って置こう。