二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

欺きの箱庭

INDEX|1ページ/1ページ|

 
「危ない!」

そう叫んだ佐藤の声は思ったよりもずっと近くで聞こえた。もしかしたら彼の唇が耳を掠めたかもしれない。とにかくそのあたりが熱くて仕方がなかった。
佐藤の頭ひとつ分くらい背の低い俺はまんまと佐藤の中に抱え込まれた。彼の着ているセーターがちくちくと俺を責める。
ふんわりとする匂いは平介とは違った甘い匂いだった。
ガタガタと騒がしい音が過ぎた後、佐藤は俺を抱いたまま暫く動かなかった。なんとなしに俺も心地がいいのでそのままにしておいた。薄暗い部屋の中で抱き合う二人。
「あれ、」
ふと、頭の上に冷たい滴が落ちてきた。え、と佐藤も声を上げる。
「泣いてるの、お前」
佐藤から離れてみて初めて気がついたのは、重そうな段ボールがふた箱佐藤の横に倒れていたことだ。(これが落ちてきたのか…)(いくら狂犬でも、)(これは痛いよなあ…)
「痛いなら痛いってい」「違う!」
佐藤の顔が、また怖いくらい近くに寄った。ふわふわの前髪が、俺の額に触れそうで触れない。(まるで俺たちの距離感みたいだ…)
「違うんだ…違うんだよ、すずきぃ」
違う違うと言いながら彼はまた眼から涙を零した。拭ってやろうと手を伸ばしてそれはやっぱり違う気がして元に戻してやっぱり拭いてやろうと思いなおして手を伸ばしたらそれを力強く握られてしまった。
「さとう…」
「すずき、俺ね…俺はね…」
仕方がないから俺たちはまた抱き合った。佐藤が何も言わないのも、俺が何も言わないのも、そんなのはそんなので当たり前なのだ。だって、俺には、(へーすけが)。
「そんな顔…するな、よ…」
やっと絞り出したみたいな声だった。体中の水分が蒸発してしまったみたいに口の中が乾いて、うまくしゃべれたのかすら自信がなかった。こんなの、理不尽な怒りだってわかってる。俺たちは他人から見たらきっとすごくかわいそうなんだろう。
佐藤はここでキスでもなんでもしてしまえばよかったのだ。そんなのだから俺たちは(へーすけの呪縛から逃げられないんだ…)。
チャイムが鳴った。静かに俺たちは離れていく。先にドアを開けたのは佐藤だった。頭を数回、さすっていた。やはり瘤にでもなったのだろうか。だがしかし俺は何も言わない。(何も言えない)。
佐藤が歩く数歩後を、俺はゆっくりと歩き出した。
作品名:欺きの箱庭 作家名:しょうこ