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【6/27】 シズイザ本 【サンプル】

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「あ?」

「何が別にどうでもいいんだ?」

「あぁ。・・・女。女嫌いかってシンラが。」

「は。どうでもいいんなら嫌いと似たようなもんだな。」

「そうかぁ?」

「そうじゃねぇか?」

「どうだかな。」

「女にモテ過ぎる奴の悩みだな。」

「悩んでねぇよ。全然。」

「はは。そうか。」

まぁ別にそういうのは、他人にどう言われようと本人の好きにすりゃいいしな、とカドタが笑ってシズオの肩をポンと叩いて先に手を洗って出て行く。

「・・・手ぇ洗ってから触れっての。」

とシズオはブツブツ言いながら手を洗い、ふと鏡に映る己の顔を見た。不機嫌そうな顔。そしてその顔の上を彩る金髪。5つのあの日以来癖のようにずっと染め続けている髪は、最早黒髪だった時のイメージを自分でも思い出せなかった。

「アー・・・。ナンっか、たりィ・・・。」

午後の授業はフケちまうか、とシズオは口の中で呟き、実際に融通を利かせてその通りにした。裏社会の力プラス自分の腕力を効果的に使えば(要するに恫喝に近い行為なのだが)午後の授業を早退することも比較的自由なのだ。とりあえず学校を出たシズオは、本来必要な手続きとして一応は迎えに来ている使用人に荷物だけ預けてあっさりと帰し、すぐ近くのセントラルパークへと足を運んだ。

天気の良い日だから、元々は羊の放牧場だったシープ・メドゥと呼ばれる広い芝生広場には、観光客を含め多くの人々が敷物を敷いて寝転んだり本を読んだり三々五々日だまりを楽しんでいる。シズオはポケットから薄い紫色のサングラスを取り出してかけ、子供達が遊び恋人達が指を絡めて寝転ぶ傍らをゆっくりと芝生の上を歩く。巷では強面に思われているシズオだが、彼は元来子供好きであり、こうした穏やかな暮らしの中に身を浸す事が何とも言えず心地良くもあった。ただ、それが生まれ持った運命というやつなのか。静かに暮らす事を許されない何か、がシズオには備わっているらしかった。

シープ・メドゥから少し離れた場所には随分の年代物だがそれなりに手入れされた回転木馬小屋があり、一回二ドル。そこから流れてくる時代がかったゆったりした音楽に誘われるように、シズオは久々にそちらへと足を向けた。小さい頃には乗った覚えもあるような気がするが、そう目立った場所にあるわけでもなく珍しいものでも無いので近寄るのさえ考えてみれば久々だ。微かな記憶にある昔と何も変わらず今日もぐるぐるとのんびりした速度で回る木馬には、子供達や連れのカメラに手を振る観光客の姿が見える。その風景をしばらく、ポケットに両手を入れて穏やかに眺めていたシズオだったが、急にその薄紫の眼鏡の奥で瞳がスウと眇められた。

薄暗い煉瓦造りの木馬小屋の切り取られた明るみの中、目の前を何度目か横切る、ゆっくりと上下する白い木馬。その上に、にっこりと。短めに整えた黒髪の若い男。ふふ、と吊り上がった唇の笑い方には何処か見覚えがあった。やがて、更にゆっくりとしたテンポになった木馬が完全に停止し、それは計算したようにシズオの目の前で停まった。木馬の支柱を掴んで器用にくるりと、猫か何かのような動きで若い男が木馬から身軽に飛び降りて仕切りの柵越しにシズオの目の前に立つ。そしてフードにファーがついたジャケットのポケットに両手を突っ込んで、小首を傾げて笑った。





「・・・シズオ君、だよね?」





十年ぶり、かな?と言いながら柔らかな声と柔らかな笑顔の若い男はヒョイと柵を手も使わずに跳び越えて、係員や乗客の非難と驚きの混じった視線とざわめきに片手を上げ、制するような振りを見せると不思議とその視線も声も収まってしまう。そうしておいて黒髪の男は今度は柵無しの距離でくるりとシズオに向き直って、俺のこと、解んないかなぁ?と微笑んだ。

「俺、そんなに変わった?」

硬直しているシズオの周囲を、ポケットに両手を突っ込んだまま男は一周歩いて見せて、ね?とまたわざわざシズオの正面に立ち止まって覗き込む。シズオの方が背が高いから覗き込むと言ってもそれは見上げる形になるのだが、シズオからすれば薄紫のサングラスを突き破って、相手の黒い瞳が文字通り覗き込んでくるような印象だった。





「・・・イザ・・・ヤ」





か、と最後の音は消えて、それでも自分の名前をシズオに呼ばせたイザヤは至極満足そうに、勝ち誇ったように笑った。

「わぁ、ちゃんと解ってくれたんだ?さすがだねぇ。っていうか十年経つのに変わらないよね。」

二人は木馬小屋を離れて歩き出す。そう言えば、昔イザヤも一緒にここでこれに乗った事があったな、とシズオは今更のように思い出した。あれはあの仮装パーティでの出会いから半年ほど経った頃だったか。そんな事を思いながら歩く足は自然と道から逸れて、二人はシープ・メドゥとはまた別のこじんまりとした芝生の広場へとゆっくりと入ってゆく。

「・・・手前。いつ・・・戻った。」

「ん?今日。っていうか、さっき空港からね。」

「・・・寄宿学校は?」

「あぁ。辞めた。だから戻ったんだよねぇ。ホントお久しぶり!」

さも親しそうに、トンとポケットごと手で腹を小突くような仕草だった。だが物慣れたシズオの目には一瞬だが刃が見えて、グイと抱え込むように傍目には親しい者同士がじゃれ合うように、シズオはイザヤを抱え込んで密かにその手首をポケットごと腹の影で捻り上げた。

「手前・・・人前で物騒なモン晒すんじゃねぇ。ここにゃガキだっていっぱい居んだろが。」

「やだなぁ。俺達だってまだ十分にガキだよ?ティーンエイジャーなんだしさ?」

「どうでもいいから刃物しまえ。手前の手首折っちまわねぇように手加減すんのくたびれんだよ。さっさとしまえ。」

「手首掴まれてちゃしまえないんだけど?相変わらずバカだよね。」

「何ぃ?」
傍目からみると仲良さそうに、高校生同士が内緒の話をしているようにしか見えなかったが、薄紫の眼鏡の奥では瞳が険しく眇められ、その一方ニコニコしているように見える黒い瞳の奥では青い炎めいた光がちらついて、一触即発な濃密な空気が二人の間のごく狭い空間にだけ立ちこめていた。

「とにかくここじゃマズいだろ。お前ん家の鉄砲玉だってこんな場所じゃこんなマネしねぇ。」

「場所なんてどうだっていいよね。俺は」

シズちゃんが死んでくれさえしたら

「それで満足だよ?」



まるで睦言のように甘く柔らかく吐息混じりの声で囁かれる言葉。思わずシズオが相手の顔を見ると、完璧な笑顔がそこにはあった。