はにかみ
そう言って臨也さんは笑う。
だから僕も笑顔で貴方の名前を呼ぶんだ。
「こんばんは臨也さん」
「また窓から入ってきて!」
「だって帝人君が驚く顔が見たくてね」
いきなり現れた臨也さんは窓を引いて中に入ってくる。
脱いでいた靴を持って一度僕に笑いかけてから玄関に向かっていた。
僕は仕方がないなぁ、何て思いながら付けていたパソコンを落として、空いたままの窓を閉めてから鍵をパチンと閉める。
後ろを見れば臨也さんはコートをハンガーにかけていて僕の視線に気づいたのか僕を見てからハンガーを引っ掛けていた。
臨也さんを見る。
臨也さんは僕より背が高いのにすらっとしていて綺麗な体躯をしている。
僕は背は低いしひょろい。羨ましい。
思わずそんなことを言ったことがあった。そしたら臨也さんはキョトンとした顔で少し目を大きく開けてからなんだか嬉しそうに笑う。
君はそのまんまでいいよ。
そう言って臨也さんは僕の頭を一度緩く撫でた。それがなんだか子ども扱いをされているような気がしたけど実は好きだったので何も言えなかった。恥ずかしくなって。
「帝人君?」
何も言わずにぼうと臨也さんを見ていたことで臨也さんは不思議そうな声で僕の名を呼ぶ。
それで我に返った僕はまた顔が熱くなるのを感じながら少し顔を横に振って話題を変えることにした。
「臨也さん」
「なに? 帝人君」
「今日は晩御飯食べてきました?」
「いいや」
「僕もまだなんで一緒に食べませんか?」
「ありがとう」
臨也さんが僕の家にきたときに晩御飯を一緒に食べるはいつものことだった。でも僕は毎回食べたか聞く。
一緒に食べましょう、そう言ったときに嬉しそうに笑う臨也さんの顔が見たいから、と本音をいうのはなんだか臨也さんを付け上がらせるような気がして内緒にしておく。
鋭い臨也さんのことだからバレバレだと思うけど。
直していたテーブルを出してきて真ん中に置けば、臨也さんは酷くシンク下から自然に食器を取り出していく。
いつのまにか二つ揃ってしまった食器たちを横目でみながら僕は作っていた味噌汁を温めた。
冷蔵庫が開く音がする。多分お茶を取り出してるんだろう。
もういいかな、と思って熱するのを止めたら、帝人君と臨也さんに呼ばれた。
振り返れば昨日の残り物のおかずたち。
「これ温めたらいいかな」
「はい。あ、味噌汁だけさっき作ったんです」
「帝人君のは日にち経っても美味しいから気にしないで」
そんな、お世辞にしても恥ずかしいことを臨也さんは笑ってレンジに皿を入れてセットする。
僕は椀を取り出して味噌汁をよそった。
それを持っていけばもうテーブルには今温めている皿以外のものが揃ってる。本当この人僕の家を熟知しすぎ。
チンと音が鳴って臨也さんが湯気を立てた皿を持ってきてテーブルの真ん中に置く。
僕が前に置かれた箸を持っていただきます、と言うとどうやら僕がいただきます、と言うのが好きらしい臨也さんは僕が言い終わるのを見てから箸を取って同じようにした。
味噌汁を啜りながら臨也さんをちらりと見る。
臨也さんは食べ方も綺麗だ。
本当に完璧な人だと思う。性格はちょっとアレだけど。
そう思っていたら、臨也さんがふっと口を歪ませて笑った。
「帝人君は本当に俺が好きだね」
臨也さんがそう言って綺麗に笑う。
それを直視した僕はまた顔が熱くなるのを感じて思わず顔を背けた。
いきなり何を言い出すんだこの人は。
「また窓から入ってきて、なんて言うけど、帝人君は一度も窓を閉めたことがないのを知ってるし、こうやって俺の分も晩御飯作ってくれてるしね」
帝人君、こっちみて。と言われてゆっくり向けば、いつのまにか臨也さんがテーブルに手を当てて身を乗り出していて……
ちゅっ
と軽く触れた唇に僕は呆然と臨也さんの顔をみる。
臨也さんはそれはもう綺麗に笑った。
「勿論、俺も帝人君を愛してるよ」
- end -
ほんわか可愛い臨帝が大好きです
秋海