二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

悲しみの始まり

INDEX|1ページ/1ページ|

 
雨が、降ってきた



坊ちゃまの、遠くを見つめるようなか細い呟きに、私はベッドから出ないで何を云っているんです、と、冗談だと思いつき返した。すると、云い終わるか終わらないかというタイミングでざあああ、と、痛ましく、耳を劈くような雨音が四方を埋め尽くした。使用人たちの怒りに近い声が屋敷中にこだまする。雨だ、雨だあ! それこそ、大祖父の自慢の一品でもあるカーテンなどでも濡らしたら事である。



本当でしたね

驚いただろう



自分も使用人の一人のくせをして、随分と屋敷の騒動に他人事である。それは、多分坊ちゃまの得意気な笑顔に魅せられたからだろうと思う。ええ、とても。私も釣られて笑い返す。



お前も行かなくていいのか

・・・人の服の裾を引っ張っておいてよく云いますね、お坊ちゃん



ぱっと、今までの軽い力が解けて、坊ちゃんは照れたように俯いた。(そのまま離さないで下さったほうが、どれだけ楽だったことでしょう!)云ってしまった後悔と、安堵が、不思議混ざり合う。



気が付かなかった・・・

ええ、そうでしょうとも!



それが貴方の当たり前であるのなら、身近であるものほど、実は気が付きにくいものです。私は怖々と坊ちゃまの毛先の柔らかいくせっ毛に指を絡めた。くすぐったい、と坊ちゃまは目を細める。堪らなく愛しいと思って、そのままわさわさと頭を撫でる。



お前は、使用人のはずなのに



坊ちゃまの目が、また、遠い場所へ戻っていく。云い掛けた言葉の先は、一定量の雨に端から融けていった。



さあ、私も往きます



まずは、貴方の部屋の窓から閉めましょう。何故、分かっていたのならもう少し早く教えてくださらないのです。



誰か、雑巾を!



大きく、掌を鳴らす。雨が吹き込んで、誰かの涙のようだった。(これは、私の涙ですか、貴方の、涙なのですか?) そんな疑問すらも、雨は返してはくれない。



この雨のように、融け込んでしまって

わからない

そうして

永遠に届かないもののようで

あなたの住むのは しあわせの国 ──── ・・・
作品名:悲しみの始まり 作家名:しょうこ