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その愛しさから消えてください

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慶光の何処が好きかって言ったら、やっぱりあの笑い方だった。雨のようにしっとりと淑やかで、それでいて世界の全てを諦めたあの愁いを帯びた瞳。ときにあの瞳はとても情熱的だった。



あら、懐かしいものを見ているのね、と百合子は言った。俺はそれに微笑むだけで答えはしなかった。後ろからさらさらと伸ばされた百合子の黒髪があたる。懐かしいものとは写真だった。古いアルバムで、黄ばんでいるページの方が多いくせに、貼ってある写真はまだ真新しいものもある。きっと写真の中身を誰かが故意に替えたのだろう。中の写真は慶光ばかりだった。優しく微笑む姿は昔から変わらない。指の先までがなにか鋭い硝子細工で出来ているような、僕の慶光・・・



好きだと、愛していると言葉を吐くのは簡単だ。そのまま勢いに任せて押し倒してしまうことも、みつの細い体なら可能だろう。だけど今、俺自身が混乱しているのだ。慶光を「愛して」いるのか、光也を「愛して」いるのか(なあ、本物は一体どっちだ?)



ときに俺はこの気持ちを放棄しかける。この世の全てから、お前を排除できたら、こんなに苦しまずにいられるのだろう? でもそれは同時に俺の生きる意味も捨てることとなる。初めから、俺はお前のためにしか存在できないようになっているのだろう。



「ねえ、仁。あの子を、大切にしてやってね」

「もちろん、クイーンの仰せのままに」



本当は、あの子ってどっちだい? と、ずっと聞いてみたかったんだ。