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貴方という名の毒に犯され狂い死ぬのもまた 一興

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「どうして、きみがいる。私の事は小早川に任せたのではなかったのか」
「そんな訳ねぇよ。義将と名高い大谷殿が生き残ったら困るから、俺自らで始末しに来てなにが悪いんだ?」
 よぉ、と声をかけてやれば、俺が目の前にいるのが不思議で仕方ない、と言わんばかりに犯されて光を写す事を放棄した瞳を見開いていた。瞼に塗られた朱が目立たなくなる位、混沌としながらも美しい光彩に自分が映っているのに、俺が彼の視界に映す事が出来ない事に対して多大なる悲しみを覚えた。
「ふ、きみらしいな。だが私とて簡単に殺されたり捕まったりする訳にはいかないのだけどね」
 見えないというのに、扇子を俺の眼前に突き出した彼は不適に笑っていた。歓喜と哀しみをない交ぜにしたような笑みは見えぬ目と同じく混沌としていた。
「大谷殿らしいお答で。俺もその位張り合って貰わないと詰まらない」
 刺された扇に手をかけて奪い取れば、あ、と声を漏らしてから睨みつけてきた。
「その扇は大事なものだから、返してくれないか」
「そりゃ、嫌に決まってんじゃねぇか」
 赤い色をしたそれで物差しでするように肩を叩けば、どうも形が違うからかしっくりこなかった。
 やっぱり慣れていない行為はするもんじゃない、とため息を吐いてから物差しを入れている定位置に扇を突き立て、大谷殿の見えない目と目線を合わすようにした。
「その扇がそんなに気に入ったかい? なら、もう、構わないよ。だからとっとと居なくなるか、私に討ち取られるかしてくれれば」
「嫌に決まってる事を聞くなんて、大谷殿らしい事で」
 目許を手で隠してやれば驚いたように、肩をびくつかさせてから腕を伸ばされて叩かれた。なにをするんだ、と不愉快だという心情を露わにした表情をこちらに向けてきた。
 目が見えないのに、よくも俺がいる位置がわかるものだと感動をする。盲目になると視覚を除いた五感が鋭くなる、と迷信的な代物なら聞いた事があるが、彼はそれ以上なのではないか。
「じゃあ、きみは何をしに来たんだ。内容によっては三成に報告するよう忍びに頼むぞ」
「は。そんな事はさせねぇよ」
「では、きみは何をしにきたのかい? ここに扇が欲しいが為だけに侵入する程、莫迦ではないだろう」
 布に覆われた指を突き付けながら、光を拒絶する目でにらみつけられる様は中々滑稽である。それでも人差し指が、わざと目線を合わせようと遊んだものの、瞳すれすれで停止したことには驚きが隠せなかった。おっと、と声をあげながら後ろへ下がれば、クスクスと乾いた笑みを浮かべていた。
「流石は大谷殿、やられる事が違うと見える。俺が言いにきたのは東軍に寝返らないかというだけで……」「家康殿に言われても変わらなかった私が、藤堂高虎の言葉ごときで、三成を裏切る訳がないだろう!」
 腕を伸ばし、食ってかかるように口を開けて俺を罵る姿には義将と言われた姿はからきし想像出来なかった。否、義将だからこそ親友を裏切れという発言が気に食わないのだろうか。
「それは失礼。でも俺が大谷殿を連れて行かねぇと、……仕方ない、」
「何を煮え切らないように、言っているのかい?」
「いいや。まぁ、後で遭う事になりますよ大谷殿」
 扇はまた後で、と言って立ち去れば彼は深追いするよりも、忍びに言伝を頼む事を優先したようであった。
 此度の戦、関ヶ原は小早川がどちらに転ぶかによって勝敗が決まるであろう。勿論、聡い大谷殿も理解しているし、小早川が東と西のどちらに付こうと悩んでいるのも知っているような口振りであったし。
 早く帰って、小早川を急かして裏切らせないと、と心底面倒に思いながら、小早川への陣へと急いだ。





「……どうするか」
 私の軍は行き詰まっていた。裏切るとして小早川の軍だけであろうと、高を括っていたのだが、彼に倣うように西軍所属だった筈の軍勢がこちらへと流れ込んできたのだ。予想外の人員に、討ち死にを覚悟するしかなかった。我が軍は士気だけは高いが、多勢に無勢では勝てないのだから。
 再起への策をちゃくちゃくと練っていれば、お気楽な声が聞こえてきた。
「流石の大谷殿もお困りのようで」
「そうしたのは、きみだろう藤堂高虎」
 聞き覚えのある軽口に答えてやれば、矢張りこれも聞いた事のあるカラカラとした笑い声が脳内を反響した。
「その位の推理は大谷殿には簡単か。でも俺はあんたを失うのは、惜しい。だから助けにきたって事だ」
 肩に手を置かれ、穢らわしいと手で払うものの、何度も何度もしつこく乗せてくるものだから黙認してやっていたら、藤堂は私抱き寄せてきた。
「離せ。私の軍は最早、風前の灯火だ。せめて潔く死なせてくれ」
「イヤに決まってんじゃねぇか」
 彼はそう言えば、頬に手を伸ばしてきた。冷たい手は、私の昂ぶった心を急速に冷やしていく。
「どうして私に構うんだ。果たしてなんの意味があると、」
「どうせ、この調子じゃあんたは殺される。俺はあんたを殺したくないから、救うだけだ」
 藤堂が吐き捨てるように言ったかと思えば顎を捕まれて、彼の吐息を肌で感じる位にお互いの顔が近付けられた。
「そんなのは必要ない、今すぐ私を殺せ」
「大谷殿には俺に毒されて貰わねぇと、つまらない。アンタには俺を求め、渇望し、狂って貰うまで離してなんか、やらねぇよ」
 頭に手を回され、何をする気かと身構えていれば頬にべろりと舌を這わされた。先程の手の主とは思えない位に生温くて、気持ちが悪い。
 それに加えて彼の発言も気味が悪かった。散々病の所為で、三成と左近殿以外とはほとんど一歩も二歩も離れた会話しかしてこなかったから、こんなに濃厚に会話をしたのは久し振りのように感じた。しかも私の肌に舌を這わすなど、病が感染るかもしれないのに、よくもまぁ臆面もなく出来たものである。
「私を手懐けようとは、いい度胸だよ藤堂。出来るものならやってみればいい。もしそんな日が来たら、きみという名の毒に犯され狂い死んでやる」
「さすがは大谷殿。俺の考えた事と違う事を言ってくれる」
 彼は乾いた笑い声をあげながら、私を抱き上げた。