二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

たちあおいの花【6/27シティ新刊サンプル】

INDEX|1ページ/1ページ|

 

(前略)


「あいつ、嬢ちゃんの知り合いか?」

 トムに帝人のことを尋ねられて、茜は答えに困った。初めて会ったときにかわした約束は今も有効なのだろうかと考えたからだ。

「う、うん。あのね、さっきのお兄ちゃんと一緒にいたこと、他の人には言わないで欲しいの」

 そう言うと、トムはきょとんとした顔を茜に向けて、次にはわかったよと破顔した。

「他の男と並んで歩いてたってことだろ?静雄には言わないよ」
「し、静雄お兄ちゃんだけじゃなくて、みんなにも言っちゃだめだから」

 茜が口止めした理由を勘違いしたのか、トムは静雄には絶対言わないと笑いながら階段を上っていく。そんなトムの足をポカポカ叩きながら、茜も階段を後ろからついて行った。
 事務所に静雄は不在だった。がっくりと肩を落としながらソファに座るヴァローナに向かって挨拶すると、彼女は無愛想にこんにちはと返した。トムは奥の部屋へと入って行ってしまい、部屋には茜とヴァローナだけが取り残される。
 茜はそんなヴァローナとどう接するべきか悩みながら、距離を取りつつ窓際に寄った。するとちらりと見えた窓の外にはまだビルの下に帝人が立っていて、窓から手を振ると帝人も笑顔で手を振り返してくれた。
 外は雨が降って来たのか彼は傘をさしている。真っ青で小柄な帝人には不釣り合いの大きな傘。それは帝人が背を向けて歩き出すと茜の視線からその身体をすっぽりと覆い隠してしまっていた。
 その姿にふと何かを思い出した茜は事務所の入口へと近づいて、何本もの傘が刺さっている傘立てから、気になった一本を手に取った。

「ねえ、お姉ちゃん」

 ソファで何かの本を開いていたヴァローナは茜の呼びかけに少し驚いたように顔を上げた。茜から声をかけられるとは思っていなかったのだろう。

「これ、静雄お兄ちゃんの傘だよね?」
「……そうですが?」

 なぜそんなことを聞くのだろうかとヴァローナが茜に疑問の視線を向けていた。だが茜はそれよりももっと気になることがあって、静雄の傘を持って窓からもう一度外をのぞきこんだ。
 角に消えかけていた帝人の後ろ姿を目に焼き付けて、茜は持っていた静雄の傘を開いた。

「……意味不明です。室内で傘。必要ありません」
「どうした、嬢ちゃん?まさか雨漏りでもしてたか?」

 ヴァローナは茜の行動の一部始終を見て首をひねった。奥の部屋からトムが出てくると、茜の姿を見てとたんに天井を確認し始める。ヴァローナもそういう可能性もあったかと天井に目を向けた。茜はトムの問いかけには答えず考え込むように傘を見上げていた。


(後略)