合宿小噺
「…そうか?」
風丸の器用だと褒める言葉は、どうも素直に受け止められなかった。不釣り合いな真っ赤なエプロンで手際よく人参をぶった切る風丸を見れば否が応でもそうだろう。
無言で手を止めた俺を、風丸はどうしたんだ、と叱責する。
「豪炎寺、お前がジャガイモ剥き終わらないと鍋に入れられないだろ?」
早く、と包丁を振り回す風丸は果たしてこのような作業が得意なのか苦手なのか悩むところだ。元々見よう見まねで何でも器用にこなしてしまう風丸のことだから、本能のままに包丁を動かしているのだろう。
「ちょっと、タイム。お前の近くにいると集中できない」
「なんだよそれ!」
ひゅ、と音をたてて風丸の包丁が俺を指す。危ないな、と思いつつも指摘するが妙に面倒で俺は何も言わなかった。意外な発見だとは思いつつも、風丸が実際料理出来るのならそれはそれで俺は嬉しかったりもするのだ。(綺麗な嫁さんに料理を作ってもらうって言うのはやっぱり男の夢なんだろうな…)
「豪炎寺?」
気持ち悪い、と風丸に指摘されて俺ははっとした。表情が緩んでいたらしい。
「お前が嫁さんだったらいいなって思っただけだよ」
「ちょ、豪炎寺!?」
素直に照れる風丸はやはり可愛い。俺はじゃがいもの入ったざるごと持って席を立った。風丸がいると集中できないのは本当だ。赤くなったまま風丸は引き留めることもなかった。口だけがぱくぱく動いていてかわいい。
鬼道の横に腰を落ち着けると、図ったように鬼道が口を開いた。
「誰が嫁さんだって?」
「聞いていたのか」
「当たり前だ」
「まあ、そういうことだ」
「…幸せなもんだな」