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半分の月と影探し

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 影を探している。
 夜の到来によって僕の体から引き裂かれてしまった影は音もなく姿を消した。それから黄色い月明かりだけを頼りにそれを探し歩いている。影なんてものは無くても何の差し障りもないだろうが、どうしても探し出さねばならない気がしていた。理由は自分ですら分かっていない。それが一層焦燥感を煽る。
 路地には昼間なかった草や木が生い茂り、同じように影をなくしてしまった犬や、鳥や、蛙などが右往左往していた。それを横目に、ひたすら足を動かしてゆく。もはやこれは自分の意思なのかどうかも怪しい。しだいに民家の姿も乏しくなり、工場などが多く目につくようになる。月はいよいよ高さを増した。綺麗な半月である。更に足を進めると、大きな倉庫などが立ち並ぶ地域へと出た。僕はその中のひとつに足を向ける。自然と迷いは無かった。

 YB倉庫と書かれたその建物の扉を躊躇わずに開く。倉庫内はまるで零れだしそうな濃い闇があった。扉を閉めて、手探りで非常灯のスイッチを入れる。薄ぼんやりとした明かりが室内を照らしだした。
 「早かったですね」
 すぐ近くで声がした。反射的に振り返ると、扉のすぐ脇に影はいた。背中を丸めた格好で、しゃがみ込んで爪を噛んでいる。視線はこちらへ向いていない。古ぼけた天井を一途に見上げている。
 「探したよ」
 「嘘ですね、探してなどいないでしょう」
 間髪入れずに影は言った。
 「ひどいな、本当に探したんだ」
 「では、そいう事にしておきましょう」
 影は立ち上がって、くるりとこちらを向いた。影のくせに黒いのは髪と瞳だけで、着ている服も肌も白かった。僕は吸い寄せられるようにして、その白い頬に触れた。ひやりとした。影は眉ひとつ動かさず、底の無い穴のような黒い瞳で僕を見つめていた。濁りのない、澄んだ瞳だった。
 「本当に、探したよ」
 僕は同じ事をもう一度呟いた。
 「何故ですか。私がいない方が好き勝手できていいでしょう」
 「そうかもしれないな、でも」
 「私を信用していないんですね」
 「…そういう事だ」
 「相変わらず酷い人ですね、月くんは」
 影は笑った。表情には出ていないが、確かに笑っていた。
 「私も信用していません」
 倉庫の中は外よりも空気が冷たく感じた。指先が徐々に冷え、背中が寒さを訴えている。影はここで何をしていたのだろうか。僕から離れて、
 「でも、必ず私を探しに来る事だけは確信していました」
 僕は勢いよく影を引き寄せ、その唇を塞いだ。
 「二度と僕から離れる事は許さない」
 「光栄ですね。こちらこそよろしくお願いします」

 唇から漏れる息が熱を帯びる。背中に回された腕で、僕はようやく寒さを忘れた。

作品名:半分の月と影探し 作家名:泉流