とくべつな日々
朝あたしが執務室に入ると既に頭がつるつるの男が居た。なんだか怪我をいっぱいしているようだった。そういえば昨晩から虚退治の任務に行っていた筈で、それでやられた怪我なのだろう。つるつるはそれを気にしたふうもなく「おはよっす」と私に向かって言った。
「おはようつるりん、ずいぶん楽しんだみたいだね!」
「はは、それ嫌味っすか」
「ううん、羨ましいんだよー!」
あたしは心の底からそう言ったのに、つるつるは眉を寄せて変な顔をするだけだった。それからおもむろに懐に手を突っ込んで、何やら紙包をあたしに寄越して言う。
「取り敢えず、こんなモンだけど」
あたしは訳も分からずその包みを受け取って開ける。中から出て来たのは色とりどりの金平糖で、いつものそれより一段と鮮やかだった。
「わあ! つるりん有り難う!」
「ああ」
「でも、どうして?」
するとつるつるは一瞬ぽかんと間抜けな顔をした後、またさっきと同じ変な顔をしたのだった。
今日が自分の誕生日であることを失念していたのは別に理由なんかなかったけど、皆からおめでとうと言われるのは嬉しかった。おいしいお菓子もくれるし。
「あ、副隊長」
廊下で声を掛けられて振り返ると、そこにはオカッパの、目元に変な飾りを付けた男がいた。
「ちかちゃん、おはよう!」
「おはようございます、探しましたよ」
あたしが首を傾げると、そのオカッパもまた懐から何やら取り出した。さっきのつるつると違うのは、無造作に包まれた紙なんかではなく、綺麗に包装された箱だという事。
「誕生日おめでとうございます」
「わあ、開けても良い?」
「もちろんどうぞ」
私がごそごそと紙を破って、そっと箱を開けてみると、そこには綺麗な模様の紙の束があった。
「千代紙っていうんですよ」
「きれい…」
「折り紙にしても綺麗ですよ。後で一角に鶴でも折ってもらいましょうか」
「うん! ありがとちかちゃん!」
あたしは金平糖の包みと千代紙を胸に抱いて、お礼もそこそこに飛び出した。廊下に風が吹き抜ける。
向かう場所は、ただひとつ。早く会って、見せたい。
隊主室の扉をそっと開けるとやっぱり剣ちゃんはまだ寝ていた。畳の上で腕を枕にして寝転がっている。あたしは誕生日プレゼント達を机の上に置いて、何となく剣ちゃんの背に引っ付くようにして横になった。染み付いて取れない血の匂いがする。あたしはその匂いに顔を埋めた。
「…何だ、やちる」
「あ、起こしちゃった」
「別に構わねえが…何だ随分と機嫌良いじゃねえか。何かあったのか」
剣ちゃんはやっぱり今日が何の日かなんて覚えてなくて。
それでもあたしは、
「うん! だって──」
あなたが傍に居るだけで、どんなものよりも世界を明るく照らしてくれるのだから。
あなたに出会ったあの日から、毎日が“とくべつ”な日々。