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僕の瞳には赤が無い

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愛してるって一言すら
如何したって云えなかった





【僕の瞳には赭が亡い】





華が其処に在るかの如く、さも当然と言わんばかりの毅然とした態度が好きだった。

脱け殻の様に虚空を見詰める眼差しの先端に、決して自分が存在しないと云う事を認めるのが怖かったんだ。

彼は、其の細長い指先を染める生暖かい液体が何色なのかを知らない。

自らの腕を掻き切って流れ出た憐れなヘモグロビン達の死に様が見えないのだ。

「リボーン」

綱吉は、耳に膜が張った様なぽわぽわとした曖昧な空間で、まるで甘え盛りの子供だった。

「むかしは見えていたのにね」

「かみさまはたくさんのものを奪っていかれる」

「えこひいきだよねリボーン。そう思わない、」

何もかもを諦めた綺麗で其れでいて残酷な微笑みはいつしか琥珀色の瞳に影を作るようになって。
ハイライトを映していたビー玉の如き輝きを失ってもなお、其の地位を降りる事は許されないのだ。
守護者達が出来るのは決して彼を責めず、見守り続ける事だけだった。
黒い子供も、其れはまた然りで。

「おまえたちには二物もあたえるくせに」

「おれからは何もかもうばっていくの」

「かみさまはやっぱり、ばんにんに平等なんかじゃない」

「ねえ、」

「これは何いろなの、」

劣性遺伝の此の病は簡単に言えば女性が保因し男児に発症する。
先天性ならばだ。
綱吉は心因性の病による後天性色覚異常だった。

血液が見えなかった。
敵地に敷かれた緑色の絨毯の上で血液と言う赤はあまりにも綱吉の眼にマッチして見えて。
どれが血液なのか、何処からが絨毯なのか。
判断が出来なかった。
だから止血を怠ったんだ。

其のせいで部下が一人死んでしまったと、棺にしがみついて懺悔した青年はイタリアの頂点だった。
ただ呆然と立ち尽くしてそっと諭してやる他に、黒い子供が何をしてやれただろうか。

「手遅れだった、最初から」

「あいつはどんな処置を施したって助かりはしなかったさ」

「お前が悪い訳じゃないだろ」


ぽたぽた


流れ落ちて居るのが涙なのか血液なのか最早解らなかった。
執務室のチェアを液体で染める綱吉の背後からは夕焼けの侘しさが射し込んでいる。
リボーンはいつまでも其れが何色であるかを応えず、綱吉は腕を凝視したままの項垂れた体勢から動こうとしない。

じんじんと痛むのが腕なのか心なのかも解らなかったし、
綱吉は窓から差し込む夕陽も自分の腕の惨劇も床に敷き詰めた絨毯もリボーンのネクタイの鮮やかな色だって、
何一つ知ることは無かったのだ。

ただ、握り締めたままのナイフが鈍色に光っている事だけを綱吉は認識していた。

「おれはこうやって、なかまを喪っていくのかな、」

「眼がほしい」

「欲しいよリボーン」

「いろがみえる眼が」

はらはらと泣き続けるマフィアの頭領を見据えたまま、視線を逸らす事も出来ないのに。
きっと胸を痛めたのは、子供も同じだったに違いない。

「俺が眼に成る」

「俺が御前の眼に成るよ」

嗚呼なんて御決まりな台詞なんだと笑う事も出来ず、綱吉に許されたのはひくひくと嗚咽を溢す事のみだった。

「御前に此の眼をくれてやる」

「御前に総て捧げる」

「其れで良いだろ」

溢れたのは不満でも不平でもましてや拒絶でも無く。
揺れ動いた心が叫んで居た。

眼に成ると言う事は、必ず我が身と供に在ると言う事だ。
決して側を離れる事無く、常に隣になければならない。
綱吉より先に召される様な事があっては為らないし、
最期の最後まで綱吉の眼で在り続けると言う事の意味を理解した上での申し出に、他意が無いと云えば嘘に為った。

「おれのこと嫌いなくせに」

「そんなめんどうなこと、やめとけよ」

「リボーン、おれはおまえにきらわれるのが一番かなしいんだよ」

「さいごまでおれを憎しみともにいきるくらいなら」

「いますぐ殺してよ」

静かな空間だった。
綱吉の泣き声は小さくて、押し殺した悲嘆が垣間見える様で。
床に縫い付けられてしまったみたいにリボーンは動く事が出来なかった。

「俺は」

喉がからからに渇れてしまいそうだった。
綱吉を泣き止ませる為には言わねばならなかったし、
可笑しな誤解も解きたければついでに此の溢れんばかりの想いも伝えたかった。

「俺は…」

握り締めた拳と噛み締めた唇の中に想いを詰め込むのは終わりにしないか。
まるで自分の相棒の引き金を引くように、簡単に御前に言えたなら。
御前が取るに足らない不安に押し潰されてしまう事も無いのだろう。

「俺は、御前が好きだ」

やっと顔を上げた綱吉の頬は涙の跡を残している。
驚いたように見開かれた其の瞳は、色覚に異常をきたしてもやはり美しいライトブラウンだった。

「止血するぞ」

リボーンに其れは赤に見えた。
綱吉の世界に無い色彩を見詰めて、凝血し始めた生命を拭って捨てる行為は何故か背徳的で。

元はと言えば行き過ぎたストレスが綱吉を狂わせた。
まだしてやれた事があったに違いない。
支えてやらなかったのは自分達の落ち度だった。
何もかもを一人で抱え込んで、耐え抜いて隠し通して笑い続けた巨大な組織の頭領は、
いつしか涙と一緒に色彩を落として仕舞ったんだ。

綱吉は誰よりも神に愛された人間だった。

「リボーン、此れはなにいろ、」

「さあな、御前が見てる色だろ」

神は綱吉の総てが欲しかったんだ。
だから奪っていくのだろう。
寒々しくて不健康な色合いの中で綱吉は生き続けるのだ。

「リボーン、おれも、おまえが好き」

「嗚呼」

「すきだよ」

「俺もだ」

「あいしてるからね」

「解ってる」

御前が見なくて良い色だ。
苦痛の現れだ。
悲しみの色だ。
恐怖の象徴だ。

其れでもきっと、
其れは情愛の色だった。





弱りきった御前に、
愛してるも言えない。






†END†
作品名:僕の瞳には赤が無い 作家名:autumn